子どもたちに「物の手触り」を感じさせるのは、五感を養うということでしょうが、それは、本来は自然界の中でいろいろなものに触ったり、においを感じたりする中から感じることが必要なことでしょう。ですから、ドイツでは、自然との触れ合いも意図し、大切にしています。今日の午前中に訪れたキンダーでも、園の保育目標の一番目のものが「自然観察を通して科学する目を育てる」というものでした。その目標に従って、園庭には、ビオトープがあったり、コンポストもあります。この園の取り組みは、新聞や専門雑誌、各種団体から注目されていて、見学も多いそうです。
世界の教育取り組みに大きな影響を与えている原因にOECDが行ったPISAの学力調査があります。日本でも、今回の学習指導要領の改定では、その学力低下のために、ゆとり教育、総合的学習の交代が行われました。ここドイツでも、その成績が悪かったために教育の見直しが行われました。しかし、この結果行った教育改革には日本と過ごし違った方向になっています。まず、徹底してその結果について分析し、研究を重ねたそうです。その結果、まず、幼児教育での「陶冶」の重視ということで、人格形成を中心に就学前教育を行うことにしたのです。この方向は、同じOECDが提案しているECECにおいて取り上げられ、就学前教育について他の国へも推奨しています。
特に、ここバイエルン州ミュンヘンでは、ドイツ国内の中ではPISAの学力は高かったそうで、その取り組みは国内でも参考にしているそうですが、もしかしたら、あの有名な物理学者は、ここのギムナジウムを卒業していることに関係があるかもしれません。また、あの偉大な学者を受け入れることができなかった、それまでの学習のやり方の見直しに影響しているのかもしれません。
アインシュタインは南ドイツのウルムにユダヤ系ドイツ人として生まれましたが、彼の父が経営していた工場が倒産してしまいます。そこで、一家はイタリアのミラノに移りますが、アインシュタインだけはギムナジウムに在学中であったため寄宿舎に残りここで教育を受けます。彼の通ったギムナジウムが、今回宿泊しているホテルのすぐそばにあるので、朝の散歩で行ってみました。
もともと彼は、とても静かな子だったようですが、5才の時に、家庭教師に椅子を投げつけたこともあり、かなり自分を主張する子であったようです。その彼が、大学に入学するために行くことが目的であった日本でいう中高に当たるギムナジウムは、なじめなかったようです。ギムナジウムのギリシャ語,ラテン語などの詰め込み主義教育にもなじめなかった。こんな話が残っています。ギムナジウムで、ある教師から「もし、きみがクラスにいなかったらもっと幸福だろうに」と言われたアインシュタインは「私は何も悪いことをしていません」と答えました。すると先生は「それはそのとおりだ。しかしきみはうしろの列のそこに坐って、にやにやしているが、それは私が、クラス全体から得る必要がある尊敬の念をおかしているのだ」と言われたそうです。話によると、そんな彼は物理の成績は抜群でしたが、数学はそれほどでもなかったようですが、それ以上に統一後間もないドイツ帝国の軍国主義教育は、自由にして闊達なアインシュタインの気質には合わなかったようです。彼は、こう言っています。「私はミュンヘンの学校が、いやでたまりませんでした。厳格な規律と権威主義。教師は軍人のように、むちを振るって、隊列を組ませます。私は逃げ出す方法を探し求め、やっと見つけだしました。つまり、私と懇意だった医者のところに言って、一通の診断書をもらってきたのです。私は、神経衰弱に苦しみ、すぐにも学校を離れる必要があるという内容でした。」というわけで、アインシュタインは、ミュンヘンのギムナジウムを中退し、親のいるミラノに突然行ってしまうのです。そして、「心配しないでくれ、浮浪者になるつもりはないから。ぼくには、ちゃんと計画があるんだ」
時々、園で知ったかぶりして、「幼児教育には教育と養護と陶冶の三要素が必要なんですよ」というと、たいていの先生はキョトンとされます。まだまだこの「陶冶」の考え方は日本ではオールタナティブですね。どうしてなんでしょう。詰めこみ教育の弊害をなくするために「ゆとり教育」を始めたのに、PISAの結果に驚いて、また逆戻りですか。なぜ第三の教育方法を考えないんだろう。その点、さすがドイツはすごい!日本と違って、幼児期の育ちがいかにその子どもの人格形成に影響するかということを理解しているからでしょうか。
アインシュタインが通った、しかしやがて離れることになったギムナジウム訪問、今回のミュンヘン視察の収穫ですね。ドイツは帝国時代、ナチスの時代、そして東西ドイツの時代を経て、今国家の将来を見据えた教育改革に取り組み始めていることが伺えます。PISAの学力調査結果はドイツの教育改革を誘発しました。日本でも「改革」が始まるかと思いきや「授業時間数の増加」「学校施設の耐震強化」・・・と何だか本気でやる気あんの?とクエスチョンマークだらけになります。やはり凄いなと思うのは、「その結果、まず、幼児教育での「陶冶」の重視ということで、人格形成を中心に就学前教育を行うことにした」というところです。幼児教育環境に従来配慮してきた土地柄、さらに「人格形成」に力点を置いた改革は今後の注目に値します。日本の「人格形成」はすぐに「道徳」となり、ますます人格形成をしにくくしています。
教育改革の検討の結果が陶冶の重視というのがいいですね。見た目や数字を重視するのではなく、一見遠回りのように見えますが、人格形成を中心にするという方針は見習うべきところだと思います。まずは乳幼児期に対する捉え方から変えていかなければいけないんでしょう。
アインシュタインのギムナジウムの話は、こういうことを経て相対性理論を生み出したということから学べることは多いです。アインシュタインという人がいて突然相対性理論を生み出したのではなく、いろんな環境を経てそこに至ったという歴史から、私たちは学ばなければいけないと思います。その気になれば、今を見直すきっかけはどこにでもありますね。
園庭にビオトープやコンポストがある理由は、純粋に自然に触れ合う事だと思っていましたが、五感を養う為でもあるのですね。そして五感を刺激することが「科学する目」を育てることに、つながるというのは、読んでいて感動しました。日本で科学と聞くと実験くらいしか思いつかなかったので、まさか五感を刺激する事と科学が繋がるとは思ってもいませんでした。そして、そのような環境のもとで色々と学ぶ事によってアインシュタインのような偉人を生み出すのだなぁと思いました。ただ、アインシュタインが当時通っていた学校は今とは全う教育方法ですが、その方法を年が経つにつれて見直し、今の教育があるので、やはり、その辺が日本と大きく違うところなんだとも感じました。