昨日の朝日新聞のコラム「天声人語」に、東京紙面の声欄で掲載された「母の音色した53年前の木琴」について触れています。声の蘭への投稿内容は、「投稿者の男性(60)が小学2年の時、母親が木琴を買って教室に届けてくれた。過日の物置整理でそれに再会した」というもので、その男性は再会した木琴を雑巾でふき、「どれみふぁそらしど」の文字が現れた鍵盤で「荒城の月」の冒頭を奏でたという記事です。その記事に連想して、天声人語では、約3万5千年前の楽器がドイツの洞窟で見つかったという記事についても触れています。その笛は、ハゲワシの骨に五つの指穴を開けた、22センチほどの笛です。この笛から、このようにコラムは続けています。「かすかに曲がった細い管を抜ける音には、誰のどんな記憶が宿るのか、興味は尽きない。破片をつないだ笛はあいにく、息を吹き込むにはもろすぎよう。最古の楽器は意外に広い音階を持つらしいと、想像するしかない。洞窟の住人は、肉を食べ骨をしゃぶりながら、音を操る技をわがものにしたようだ。どんな音色にせよ、節をつけて鳴らすことにある種の快感が伴ったと思われる。旧石器時代、生活の傍らにすでに音楽があったことになる。同じ場所では先に、マンモスの牙でこしらえた最古の裸婦像が出た。骨笛もまた、芸術の起源か、信仰や呪術の道具だったのだろう。戯れから娯楽が生まれ、やがて美意識や祈りに昇華する。そんな「音の出世」は確かにあるけれど、記憶の入れ物、運び手としての役割も心にとめておきたい。ほこりまみれの木琴に、大切な人を過去から招く力が潜むのだから」
このコラムを読んで、私は、以前講演先で連れて行ってもらった先で見た石の木琴(石琴)を思い出しました。そこは、香川県五色台です。そこから見える瀬戸内海は、点々と島影が見えます。
しかし、今から1万年以上前、日本列島は大陸と陸続きで、現在の瀬戸内海も所々に沼や湖などのある平原だったと考えられているそうです。当時の人々は主に狩猟による生活を営んでおり、そのための道具として石を打ち欠いてつくった石器(打製石器)を使っていました。当然、よく使う石は、そのあたりで取れる石を使うことが多かったでしょう。しかし、黒曜石のように特殊な形に割れる石は、各地に伝わることもあったようですが。ここ五色台や坂出市の金山などで産出する石は、うまくたたくと薄く割れ、その割れ口が刃物のように鋭くなるので、石器の材料としてたいへん優れていました。ですから、ここで産出される石を使った石器は県内だけでなく、西日本の各地で出土しています。
そんな石を当時の人は石器に使っているときにあることに気が付きます。叩いてみると、いい音がするのです。特に、固いもので叩くと高く澄んだ音がします。そして、音の違う石を並べると音階ができます。
この香川県だけに産出する自然石を、1891年ドイツの地質学者ヴァインシェンクが「讃岐〔さぬき〕の岩」の意をこめ「サヌカイト」と命名しましました。木槌で叩くと神秘的で澄んだ美しい音を奏でるところから、地元では「カンカン石」と呼ばれています。そして、2007年、日本の地質百選に選定されました。
今でも、その澄んだ音の為に玄関のベルの代わりに使われたりしていますし、楽器としての演奏者も存在し、コンサートも開かれていたり、香川県の公共施設のBGMで流れているそうです。また、サヌカイトの風鈴なども作られていて、癒しグッズの一つとして販売されています。
天声人語ではありませんが、「戯れから娯楽が生まれ、やがて美意識や祈りに昇華する」一つの例でしょう。