サイエンスの2月号に「髪の毛でわかる古代の薬」と題した記事が掲載されていました。その記事は、古代アンデスでは植物からつくった幻覚作用をもつ薬が治療に使われていたというものです。その記事によると、「アメリカ先住民の社会では,精神活動に影響をあたえる植物が霊的な儀式や民間療法に用いられたことが知られている。また,南アメリカの古代アンデス地方の墓に鼻から吸引する「かぎたばこ」が入れられていたことから,幻覚作用をおこす薬が古くから利用されていたと推定されてきた。」その推測が事実であることがチリ北部で発見された「ティワナク文化期(西暦500~1000年ころ)」のミイラ群の毛髪を分析してわかったそうです。この毛髪を分析してみると、アンデス地方に生えている特定のツル科植物に含まれている精神に作用する「ハルミン」という物質が検出されたようです。この物質は、アンデスの人々は幻覚作用をおこすためではなく,治療用の薬としてこの植物を使っていた可能性が高いといいます。いわゆる、今で言うと治療の時に使う麻酔のようなものだったのでしょう。
このような体をマヒするNARCOTICS(ナルコティクス)という言葉を「麻酔」と訳し、そのほかにも「麻薬」「麻痺」「麻疹」など、五体の痺れを示す表現にすべて麻の字がつくのは、大昔、中国の人がこれらの麻酔は麻(大麻)からもたらされると考えたからだそうです。
その由来に関係する人物が、日曜日に見た「レッドクリフPartⅡ」に出てきます。映画の中で、曹操軍は、兵士たちの間で疫病がはやり、困ります。その時治療する曹操の専属医である「華陀」という人物が登場します。彼は、「後漢書」の「華陀(かだ)伝」によると、西域の胡人で、「麻沸散」という大麻から作った麻酔薬を、酒と一緒に病人に飲ませ、麻酔状態になったところで腹と背を切開し、胃腸にあった患部を摘出し縫合し、一か月で快癒させたとあります。この薬は麻(大麻)から作られたので麻沸散といい、以後、ナルコティクスに関する言葉にはすべて「麻」の字がつくとしています。
特にこの麻沸散は、外科手術の時に用いられた麻酔薬で、華佗はこれを使用して世界で初めての全身麻酔による切開手術を行ったといわれていますが、この命名には華佗自身の悲話が伝わっています。
「華佗元化には妻と「沸」と言う名前の1人息子がいました。ある日のこと。華佗が妻と沸を連れて山中に散策へと出かけ、華佗と妻が二人で薬草を探している間、息子の沸は1人で遊んでいました。華佗と妻は必要な薬草を手に入れ、さて帰ろうかと周りを見まわしてみると息子の姿が見当たりません。急いで探し回ると、我が子が力なく倒れているのを見つけました。急いで介抱してみましたが、すでに沸は事切れていました。沸は毒の実を食べたのでした。華佗はその実を調べてみると、どうやら適量であれば麻薬効果があることがわかり、念願の麻薬完成にこぎ着けた華佗は、その麻酔薬に我が子の名である「沸」をつけ「麻沸散」と名づけたのです。
この華陀は、曹操があまりに頭痛がひどいときに「よろしければ私が頭を切り開いて中身を見ましょうか?」と言って、麻酔の存在を知らなかった曹操の怒りを買い、殺されてしまったと映画のパンフレットに書かれてあります。他の資料には、手術を暗殺と思い込んだ曹操によって殺されてしまい、華陀の医学は後世にあまり残らなかったと書かれてありました。
レッドクリフで「茶」を知り、「麻酔」も知ることができました。
サイエンスのラテン語の「知る」という言葉が語源だと学びました。興味を持つことから始まり、突き詰めて考えてみることが科学だとすると、子どもたちの「知りたい」気持ちをいかに満足させるかが大事だと分かります。華佗も悲しい出来事がなければ麻酔の発見には至らなかったでしょうし、「知る」ことは大切ですね。
今度の週末は、「レッドクリフPartⅡ」を観に行こうと思っていたのですが、仕事ですね(泣)。藤森先生の予告編のおかげで、期待は高まる一方です。野山を歩いていますと、トリカブトをはじめ、結構毒性の強い野草を見かけることがあります。古代の人々は、自然の中での生活の経験から、野草の毒性を宗教的な儀式や病気の治療に幅広く使っていたわけですね。これも一種の自然との共生ですか。最近、大麻汚染が有名大学の学生にも広がっていると言われています。彼らが大麻に手を染める動機の一番が、友人と簡単に打ち解けることができるからだそうです。少子化による若者の生きる力の低下がこんなところにも影響しています。怖いですね。
華佗の悲話はなんとも切ないです。妻と薬草を探しに行き「1人息子」を失う・・・考えただけでもぞっとします。有ってはいけないことが起こっている。「毒の実」を食べて・・・しかしその「毒の実」は「適量」であれば「麻薬効果」がある。1人息子の死のおかげで「念願の麻薬完成にこぎ着けた」。歴史的な発見とは斯くも残酷な裏話を持つものか、と非常に複雑な気持ちになります。私自身手術経験がありますから「麻酔薬」の威力の絶大さは言うを俟ちません。虫垂炎の手術でしたからお腹が切り開かれ患部の摘出。その間何の痛みも感じません。お腹にメス、と想像しただけでも痛みを感じるのに・・・。麻酔薬の偉大さ。そしてその歴史が二千年以上の昔に遡ることができる。人類史の壮大さに思いを馳せることができます。
三国志で、華陀という人物は初めて知りました。まだまだ勉強不足です。それよりも当時の時代に麻酔が存在していたことが驚きました。その麻酔を発見した理由が息子の死と引き換えだったという、華陀のお話しは本当に悲しい話しですね。普通は息子の死に悲しみ、実を調べる余裕もないと思います。しかし、そんな華陀の医学が後世にはあまり残っていないというのは、個人的に最も悲しいと思いました。