老い2

 「老いてますます盛ん」というと、赤瀬川原平著「老人力」を思い出します。この老人力は、年をとることを肯定的に捕らえる言葉として流行りました。「人は老いて衰えるわけではなく、ものをうまく忘れたりする力、つまり老人力がつくと考えるべきである」という逆転の発想と、端的な表題が人々の受け入れるところとなって、ベストセラーになりました。1998年には、第15回「新語・流行語大賞」で、トップテンに選ばれました。
 しかし、この「老人力」とは、「老いてますます盛ん」ということと少しニュアンスが違います。「老人力」とは、年をとっても、衰えるどころか、ますます活動的になるという意味ではなく、年をとって、活動が鈍くなることで、また違う価値が生まれるのではないかという意味です。物を忘れるようになってきたということを「老人力がついてきた」というふうに言いかえようという、あるシャレから始まったようです。
 また、なぜ赤瀬川さんが、このような言葉を考えたかというと、こう言っています。「“老木”という言葉は昔から、古くから使われて味があったが、だんだん老人が敬われなくなってくる傾向、特に戦後のアメリカナイズされていく中で、若者的な力と言いますか、機能と経済中心の世の中になって、だんだん老人という言葉も余り大っぴらに言えないような雰囲気になってきたわけです。」確かに、老人という言葉は、マイナスイメージのほうが多いですね。
 「若者中心、筋肉中心の考え方からいうと、衰えていく力というようになると思うんですけれども、むしろ衰えることによって入ってくる力ですね。弾き返したものが自然に入ってきて、それを捕まえられるという、それは非常に地味だけれども、内面的には勇気の要ることだと思うわけなんですよね。」その力を、赤瀬川さんは、「老人の勇気」といいます。結局言いたいことは、「余りにも今の世の中は頭で考える論理優先といいますか、機能優先、経済優先といいますか、そういうことになり過ぎている。しかし、そうじゃないところの、そういう考え方の世界からちょっと押し退けられている、落としちゃっているものを見ないと、結局は人生何もなかったということで終ってしまう。本当の楽しみというのは、機能を離れて、お金を離れて、多少のお金というのは要りますので、お金を捨てるということは非常に難しいことですが、これができたら大変な哲人になれると思うんです。」
 この言葉は、不景気、経済危機といわれている今の時代では、必要なことです。また、東大教授の姜尚中さんは、ベストセラーになった「悩む力」という書籍の第九章「 老いて「最強」たれ」という中で、「老人力」について書かれています。「『老人は権威によりかかる』とか、『老人は保守的である』とか言われてきましたが、今後はそれもあてはまらなくなる可能性が高いのです。ゆえに、これからの『老人力』とは何かと問われたら、『攪乱する力』であると私は答えたいと思います。子供はどんどん減っていきますが、老人はどんどん増えていきます。ですから、この社会は、もしかするとアナーキーなほうに向かうのではないかという気も少ししています。とはいえ、これは悪い意味で言っているのではありません。老人の『攪乱する力』は、生産や効率性、若さや有用性を中心とするこれまでの社会を、変えていくパワーになると思うからです。」
 この「攪乱する力」も、今の時代に必要なことでしょう。それが、「老いてはますます盛ん」にならなければならない所以でしょう。