今、自分の中にある教養と呼ばれるものは、意外ですが、小中学生時代に身に付いたものが多くあります。美術や音楽への興味も、今となると、小中学生のころの影響が多いような気がします。私のころの都立高校入学試験は、9科目でした。国数理社英の5教科のほか、美術・音楽・体育・技術家庭の4教科がありました。しかも、これらはすべてペーパー試験でしたので、暗記科目でした。
たとえば、音楽でいえば、学習指導要領に「共通鑑賞教材」というものがあり、各学年で決めたれた鑑賞曲がありました。中学3学年では、ベートーベン作曲、交響曲第6番ヘ長調「田園」がありましたが、その曲の出だしを楽譜で覚えたものでした。それは、最初の小節が出て、「これは、誰の作曲で、どんな曲か?」という問題が出るからです。また、階名を振ったり、移調、転調をするような問題が出るために、当然楽譜は読まなければなりませんでした。
同じように、美術でも、3原色とか、補色とか、暖色、寒色はどんな色とか、有名な画家の有名な作品と、その作品の特徴と、その作品がどのような影響を与えたかなども覚えました。
有名な画家の中で印象のある作品は多いのですが、今でも覚えているのは、セザンヌの作品です。彼の作品を鑑賞するうえで、彼の言葉のこんな言葉を教わりました。
「自然を円筒形と球形と円錐形によって扱いなさい」という言葉です。本当は、この言葉に続いて「自然は平面よりも深さにおいて存在します。そのため、赤と黄で示される光の震動の中に空気を感じさせる青系統を入れる必要性があるのです。」という言葉があります。セザンヌ以前の絵画においては、人体、山や木などの自然、リンゴや花などの静物を、いかにも眼前にそれがあるごとく、実物をいかに再現するかということが課題でした。そのために、対象物を正確に模写できるかということに力を注ぎました。
しかし、実際の対象物は3次元にあり、立体的なものです。それを2次元であるカンヴァスの上に模写しても、表わしきれるものではありません。セザンヌは、「人問にとって、その表面にあらわれているものよりずっと奥深い」と考え、それに比べて絵画は「彩色された平面」にすぎないことに気がつきます。ですから、自然を見たままの形態ではなく、円筒、球、円錐などの幾何学的な形態として捉えようとしました。その手法は、ゴーギャン、モディリアーニをはじめ、日本でも安井曾太郎、岸田劉生、森田恒友、佐伯祐三らに影響を与え、後にキュビスムとしてパブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックらに受け継がれて行きます。
そこで、彼は「「近代絵画の父」と呼ばれ、「セザンヌ主義(セザニスム)」という言葉が生まれました。今、横浜美術館で、画家ポール・セザンヌと、その芸術に影響を受けたヨーロッパと日本の画家の作品を紹介する展覧会「セザンヌ主義-父と呼ばれる画家への礼讃 ピカソ・ゴーギャン・マティス・モディリアーニ」が開催されています。
その展覧会に、先日の日曜日に行ってきました。最終日でもないのに、ずいぶんと混んでいました。時間が少し足りなく、じっくりと作品を鑑賞できませんでしたが、セザンヌの作品と、彼に影響を受けた画家の作品を見ていて、なんとなく、中学時代に覚えさせられたことを思い出しました。
藤森先生の時代の高校入試が9科目あったというのは驚きです。さぞかし受験勉強が大変だったと思います。英数国などの主要科目に比べて、美術や音楽などはとても地味な存在ですが、社会に出ていろんな人とおつきあいするときに、その素養があるのとないのではずいぶん違いますね。私はこう見えて、クラシックが大好きで、自宅や仕事場では常にモーツァルトを流しています。美術鑑賞も好きで、いろんな展示会で絵画と対話するのは心のリハビリになりますね。以前、大学受験で受験科目以外の未履修が問題になったことがありますが、知識としての教養だけでなく、芸術を愛する心を養うことも大事な人間教育だと思います。
私の場合教養ではありませんが、小学校や中学校で教わったことを思い出すことはあります。意外なところで役に立ったりします。でも思い出すのは、そのときに何故か興味をもったことばかりです。後の生活に多少でもつながっていくことを考えると、やはり関心をもって取り組める勉強というのは大切なんだろうと思います。
小学校、中学の時に美術の教科書に有名な画家が描いた絵がいくつか掲載されていますが、当時は人物や風景が写真みたいに上手に書いてある絵が上手という思い込みがあったので、どこが上手なのか分かりませんでした。しかし、以前たまたま美術館に行く機会があった時に、教科書で見たことがある絵がたくさんあり、なぜかとても感動しました。だからと言ってその絵の背景など詳しくは分からないのですが…。また美術館など行く機会があれば、じっくり鑑賞して深く接してみようと思います。
おーっと。横浜美術館の「セザンヌ主義」展に行かれたのですね。私も行こう行こうと思いながらほぼ閉幕を間近に控える今日この頃となってしまいました。「近代絵画の父」と称されるポスト印象派の巨匠セザンヌ。「自然を円筒形と球形と円錐形によって扱いなさい」から後にピカソ、ブラック等の「キュビスム」という絵画史の一時期を生み出すことになるわけですからまさに父的存在です。しかも日本の画家たちも大きな影響を受けているのですね。安井曾太郎、岸田劉生、森田恒友、佐伯祐三・・・いずれも素晴らしい画家たちです。損保ジャパン東郷青児美術館のセザンヌ作品も横浜で展示されていると同館の案内で知りました。土日は混んでいるのでしょうね。見逃したくない絵画展です。