不景気と社会貢献

世界的な貧困率の増加に対して、OECD諸国は20年前の3倍もの資金を家族政策に費やしているのにもかかわらず、片親世帯の貧困率に至っては人口平均の貧困率の3倍にも達しているという結果になりました。この結果から、ただ家族支援ではなく、「教育」のカイゼンに投資すべきだということを提案しています。同報告書によると、教育の改善は、エリートのみではなく、万人に恩恵をもたらす強力な成長達成策となると結論しています。目の前の対策よりも、教育に力を入れるということは、将来に向けての投資であり、貧富の差無く、万人に恩恵をもたらします。子どもたちこそ、われわれの将来であり、夢であり、勇気の源なのです。
 一昨日の朝日新聞の1面には、貧困層への少額融資制度で知られる世界的な経済学者ムハマド・ユヌス氏へのインタビューが掲載されていました。彼は、ここで、国際金融危機で直撃を受けた最貧困層の救済を最優先すべきだと主張しています。自らが提唱する社会貢献を最優先にする新企業モデル「ソーシャル・ビジネス」(社会的企業)への参加を日本企業にも呼びかけています。
 彼が2006年にノーベル平和賞を受賞した理由は、グラミン銀行を設立し、その銀行の総裁としてバングラデシュの農村で貧困層に無担保融資を続けてきたからです。それは、マイクロクレジットと呼ばれる事業で、これまでの銀行業務を一変させ、かつ貧困層が自立するのに大きな力を果たす画期的なものでした。その活動で、ノーベル賞のほかにも、アジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞をはじめ、数々の賞を受賞し、その功績は、本国、バングラデシュのみならず、各国で大きな評価を得ています。
既存の銀行は、預貯金という形で募ったお金を必要としている人へ、担保という信用を保証に融資をするのが主たる業務ですが、担保を持たない人は、信用力がないと見なされ、お金は貸してもらえません。しかたなく高利貸しからお金を借りるのが唯一の方法でした。稼いだお金も返済と高い利子にあてると底をつき、またお金を借りるという悪循環に陥り、貧しければ、貧しいほど貧困から抜け出せない悪循環が起きます。逆に、富める者ほど大きな担保で多額のお金を借り、それを元にますます富んでいきます。これらの循環を裁ち切るためにマイクロクレジットという事業を創設します。これは、少額無担保融資の意味で、工芸や畜産、農産物の加工、小売業などの小さな事業を興すために必要な数ドル、数十ドルという少額の資金を、資産や土地などの担保を持たない人に貸し付けるという事業です。
 このユヌス氏は、インタビューの中で、昨年の金融危機、食糧危機などで「最も影響を受けたのは貧困層だ」と指摘し、「利益の最大化を目的とするビジネスだけに市場を使ってきた経済システムの再設計が必要だ」と語り、グローバル化や資本主義の現状に疑問を投げかけています。その上で「人間が持つ利己的な部分だけでなく、無私の部分も市場に持ち込めば、資本主義は完成する」と述べ、貧困や環境問題の新たな解決策として新たに提唱した社会貢献目的の企業モデル、社会的企業の活用に言及しています。「日本の企業には、社会貢献のための基金がある。慈善事業に使っていた基金を、このモデルに使って欲しい」と参加を求めています。
 ユヌス氏が「利益の最大化を夢見る眼鏡を外し、社会的企業の眼鏡をかければ、世界が全く違って見えるだろう」と語っているように、不景気だからこそ、企業は儲けようとしないで、社会貢献を考える時期のような気がします。