教育、学校という言葉を最初につくったのが孟子です。孟子は、ずいぶんと母親が教育熱心だったようですね。それがわかる逸話がいくつかあります。その一つは、「孟母三遷」で、もう一つは、「孟母断機」という言葉です。
「孟母三遷」という言葉は余りにも有名なので、みんな知っていると思いますが、孟子の母親は、幼かった孟子を育てるのによいと思われる環境を求めて、住まいを三回かわったというものです。最後には、学校の側へ引っ越したおかげで、孟子が勉強の真似事ばかりして遊ぶようになったというのです。
「孟母断機」というのは、遠方へ勉学に行っていた孟子が、途中で家に帰ってきたときに「勉学は、どれくらい進みましたか」という母親の質問に、「いいえ、元のままです」という答えを聞いて、母親は、刀を持ち出し、ちょうど今自分が織っていた織物を、スパッと切り裂き、「おまえが学問を途中でやめるのは、織りかけていた織物を、途中で断ち切るのと同じです。何の役にも立ちません」と、厳しく教えたというものです。
今週号の「Newsweek」に、イギリスのジャーナリストのコリン氏が、自らの生い立ちを語っています。タイトルは、「子供が最も不幸な国に育って」というもので、以前ブログでも取り上げたユニセフが昨年発表をした「子供の幸福度ランキング」で、最下位の評価だったことに対して子供時代を振り返れば頷けるという記事です。
イギリス政府が昨年発表した調査では、4人に3人が15歳までに飲酒を体験し、14歳の子供の37%が過去2週間に酒を飲んだと答えたそうです。ブレア前首相は、1に教育、2、3も教育といって教育改革を最優先課題と位置付けました。その目標は達成しましたが、それはうわべだけのことで、成績の評価を甘くしたからだとコリン氏はいいます。大学進学者が急増したのも、入学基準を下げ、基礎知識さえ怪しい生徒を入れるようにしたからだといいます。
また、体にいい学校給食を提供する運動に取り組んできましたが、肝心の子供たちが、野菜やパスタよりもインスタント食品やフライドポテトを食べたがり、成果が上がりません。子供のあいだには、肥満と多動傾向が恐ろしいほど広がっているようです。運動を心がけ、食生活を改善するだけで大きな効果が望めそうなのに、実際は薬を飲まされている子供が多いといいます。
コリン氏は、こう続けます。「こんなふうに書くと、親は何をしているんだ?と言いたくなるだろう。だが、イギリスでは、子供の実に3人に1人が単身家庭で育っている。たいていは結婚暦のない貧しいシングルマザーの家庭だ。ユニセフの調査を見れば、父親のいない子どもがどういう人生を歩むかがわかる。より早く学校をやめ、健康により大きな問題をかかえ、より早い時期に家を離れ、より低い賃金に就くのだ。英保守党が昨年発表した調査は、さらに寒々しい。イギリスでは満足な教育を受けず、薬物やアルコール依存に苦しみ、人生をほとんどあきらめた下層階級が拡大している。この層を増やす問題の中核にあるのは、家庭の崩壊だという。」
日本は、このイギリスをモデルにしようとし、市場競争原理から教育をしようとしています。なんだか、怖い話しですね。こうなっていくのでしょうか。
自らイギリスに滞在して、子どもとともにいわゆるサッチャーの「教育改革」を体験したジャーナリストの阿部菜穂子さんは、著書『イギリス教育改革の教訓』の中でこの改革の「副作用」を次のように報告しています。①学校が「勝ち組」と「負け組」に別れて「教育の階層化」が生まれた。②点数至上主義がはびこり、テスト教科以外の教科が軽んじられるようになった。③テストの問題を事前に教える不正が増えた。④成績不良者の学校追放でニートが増えた。⑤一番肝心の学力向上が疑問である。日本では、安倍政権の時代に、「教育再生」の名のもとに、このイギリスの改革を「お手本」に教育に市場原理や競争原理を持ち込むことを決断しました。今のイギリスの学校現場や社会の荒廃した姿は、明日の日本を暗示しています。(いえ、もうすでにその兆候は表れています)藤森先生のこのブログを通じて、どうすればこの危機を乗り越えていけるのか真剣に考えてみようと思います。
孟子のお話しは初めて聞きました。その母親は子どもの教育のために三回も住まいを変えて、最後には学校の側に引っ越したとはかなりの教育熱心ですね。そういう環境に住めば自然と勉強の真似事をするかもしれませんね。
イギリスが教育の為に評価の基準や大学の入学の基準を下げるのは、教育の意味も何もないと思います。そして食生活の改善も子どもがインスタン食品やフライドポテトしか食べないというのは、以前からそのような食品を簡単に食べる事ができたからだと思います。それが急に野菜や栄養になるものを食べなさいと言っても簡単には食べないと思います。こうしてイギリスの話を聞くと何とも言えませんが、そのイギリスを目指している日本は、もっとどうしようもないと思ってしまいました。
「子供が最も不幸な国に育って」というタイトルで自分の国を語るのはつらいことだと思います。コリン氏の語る家庭の崩壊がもたらす悪循環から、イギリスの子どもたちの置かれた環境が少しだけですが想像できます。日本はイギリスをモデルにしようとしているんですね。「幸福度」の高い国を見習うことはしていかないんでしょうか。簡単にはいかないことがあるのかもしれませんが、子どもが幸せを感じることができる社会を目指し、そのためにも大人が自分たちの幸せ観を見直したり議論することも大切なのではないかと思います。
「孟母三遷」、「孟母断機」・・・今回のブログのようにわかりやすく解説してあると頭の中にすんなりと入ってきて定着しそうです。何故イギリスが日本の教育モデルになるのか判然としませんが、安易に他国にモデルを求めるよりは自国の歴史を丹念に紐解いて「教育モデル」を探した方がいろいろな面で良いような気がします。そうした上で他国の事例を参考にしながら「21世紀型教育」を築き上げていくべきでしょう。そして世界に対して発信していく。授業時間数を増やしたり、道徳教育を推進する前に、子どもたちが「知りたい」「学びたい」という意欲が持てる教育環境をもっと真剣に検討すべきでしょう。小手先の「改革」ならやらない方がまだ増しです。