トライアル

 最近は、映画にしてもテレビ番組にしても書籍にしても商品にしても、人口の多くを占める団塊の世代を対象にした物が多く、その年代である私は懐かしく思うものがたくさんあります。このほど出版された書物で、特に私の子どものころに懐かしいのではなく、私が少しのあいだ小学校で教えていたときに、その教え子のあいだではやっていたものを取り上げたものが出版されました。
 それは、「スーパーカー誕生」(著者:沢村 慎太朗)です。沢村さんによると、現在は、一般車の場合、「技術的臨界点」は既に超えているといいます。「この値段、用途で、この客層ならこんなもの。設計の筋道は20年前に出来上がり、今や車は会議でつくられる」のですが、スーパーカーの時代は、「スーパーカーの歴史はトライアルの歴史なんです」といわれます。沢村さんは、この本を書くのに、イタリアに取材に行きます。それは、その頃の車を目の前にすると、試行錯誤の様子が浮かび上がり、「『どうしてそうなったのか』『どういう理由でそこに至ったのか』(中略)を猛然と知りたくなった。それを知るには、事件が起きた現場に行かなければならない」という動機からです。余りに機械化が進み、いろいろなことが当然のごとく生み出されていく中、「トライアル」をもう一度見直すことが必要なのかもしれません。
 スーパーカーといえば、江崎グリコの「アーモンドプレミオ」「バンホーテン ディアカカオ」のCMに登場しました。サザエさん一家の子どもたちが25年後に法事で再会するという設定でした。その法事に、小栗旬が演じるイクラちゃんがスーパーカーで磯野家を訪れます。
 また、夏に公開されたタツノコアニメの名作「マッハGoGoGo」をワーナーが実写化した映画「スピード・レーサー」の主役は、レーサー家の次男スピード君の父の作ったスーパーカー「マッハ号」です。その車を天才的なテクニックで操り、陰謀が潜むグランプリに挑戦するという内容です。私は、この映画は見ていませんし、もとのアニメもあまり印象にはありません。ただ、007なみに、砂漠も岩山も氷のトンネルも断崖も、超スパイクタイヤで駆け上り、ハンドルについたAやBやCのボタンを押すとジャンプしたり、回転ノコギリが出てきたりしたことだけはなんとなく覚えています。
 そのアニメではなく、池沢さとしの漫画「サーキットの狼」などの影響で、日本では、1974年から1978年にかけて、スーパーカーの爆発的なブームが起きました。コカ・コーラ、ファンタ等の清涼飲料水の王冠に車が描かれていたり、カード型の書籍が発売されたり、スーパーカー消しゴムと呼ばれる塩化ビニール製のミニチュアが売られたりしました。私が勤務していた小学校の近くを高速道路が走っていたので、その頃担任をしていた1年生をつれて高速道路にかかる橋の上から、下を通るスーパーカーを見に行きました。授業中に連れて行ったので、今考えると「ゆとり」があったのですね。
当時、圧倒的に人気のあったのが、マルチェロ・ガンディーニによる近未来的なウェッジシェイプを体現したデザインの「ランボルギーニ・カウンタック」でした。その全体の姿だけでなく、上に上がるドアの開け方も驚きでした。車名に用いられているCountachは、「クゥンタッチ(クンタッチ)」が原語にもっとも近いとされる発音で、ピエモンテ州の方言で、クンタッシッという「驚き」を表す感動詞です。
 そのほか、色々なスーパーカーの車種名を子どもたちは覚えましたが、それは、「トライアル」が重視された時代の産物だったのです。