もつ

空腹時に、まず酒を口にすると、アルコールが内臓に染み入るように入っていくことを「五臓六腑にしみわたる」ということがあります。また、頭に来たり、激しい怒りが湧いてきたときに「五臓六腑が煮えくりかえる」ということがあります。この言葉は、「はらわたが煮えくりかえる」とも言うように、五臓六腑(ごぞうろっぷ)とは、「はらわた」のことで、人間の内臓全体を言い表すときに使われる言葉です。
「五臓」とは、肝・心・脾・肺・腎を指します。時によっては、心包を加えて「六臓」ということもあります。「六腑」とは、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦を指します。こちらも、三焦は、それに当てはまる臓器がないので、五腑とすることもあります。ただし、この言い方は、現代医学における解剖学の知見とは異なって、この言葉について書かれた最古の文献は、中国最古の医学書とされる「黄帝内経」であると言われているように、伝統中国医学で使われる言い方ですが、五臓の主な機能は精気の貯蔵・分泌・生成を行っているといわれ、一方、六腑は、五臓の補佐をしながら、消化・吸収・排泄などの生理機能を営んでいるといわれます。
 このように言われる内蔵ですが、牛や豚や鳥の内臓は、もつ鍋だけでなく、いろいろな調理方法があります。その有名なのは、やはり「焼き鳥」でしょう。焼き鳥というのでもちろん「鳥肉に、たれ・塩などをつけてあぶり焼いたもの」ですが、じっさいは、牛・豚などの臓物を串焼きしたものでも言うようです。ということは、焼き鳥といっても、牛や豚の「もつ」をくしに刺して焼いたものである「もつやき」のことをいうこともあるのです。
 以前は捨てられていた贓物の八割程度は、現在は、酒場で提供されているそうです。確かに、家庭ではレバー以外は余り食べる習慣はありませんが、しかし、欧米では臓物の栄養価値に対する認識も高く、肉屋と並んで 臓物の専門店もあり、肉と同様に食べられているようです。焼き鳥屋で出す「もつやき」は、最初は鳥の臓物が中心で、関東大震災の直後に東京・日本橋室町で、鶏のきも、砂肝、腎臓、心臓、皮身などを焼いて売り出したのがはじめといわれ、安いということで手軽な酒の肴として屋台などで商われるようになり、次第に酒場まで拡がっていきました。その後、鶏のもつだけでなく、牛や豚のもつも焼いて出すようになります。
また、焼肉でも「もつ」は好んで食べます。「タン」は、牛の舌のことで、焼肉には舌の付け根の部分(タンモト)の脂肪の乗った霜降り状の柔らかな部分を使います。「レバー」は、肝臓で、ビタミンAと鉄分が豊富に含まれています。「ハツ」は、心臓のことで、弾力性があり、くせがなく、脂肪分が少なくヘルシーで、固くてコリコリとします。「ハラミ」は、横隔膜の一部で柔らかく脂肪も豊富で濃い味です。牛には4つの胃がありますが、それぞれに名前がついています。1番目は、「ミノ」といい、1番大きな胃で、クセが無く食べやすいです。切り開くと簑笠のような三角形になることから「ミノ」と呼ばれています。2番目は、「ハチノス」といい、蜂の巣状の筋があり、独特の風味と歯ごたえがあります。3番目は、「センマイ」といい、胃壁が千枚ものヒダに見えることから、「センマイ」と命名されています。4番目は「ギアラ」です。濃厚ですが、希少価値が高くなかなか手に入りません。「フワ」は、牛の肺で、味は淡泊です。「タチギモ」は、牛のヒ臓で、レバーよりきめ細やかです。「マメ」は、腎臓で、ビタミンA、ビタミンB2が豊富です。「ヒモ」は、盲腸で、柔らかくて食べやすい部分です。「モウチョウ」は、あっさりしていて独特の歯応えが楽しめます。「コブクロ」は、子宮で、淡泊で、コリコリとしています。「シマチョウ」は、大腸部分で、あっさりしています。
ずいぶんといろいろなところを食べますね。どの部位か知ると、なんだか食べたくなくなるかもしれません。