推理

 先日のニュースで、江戸川乱歩の「人間豹」を松本幸四郎、市川染五郎の親子が来月、東京・三宅坂の国立劇場で歌舞伎化するそうです。「新しい歌舞伎を構想するうち、明治期以降のとらえどころのない感覚にひかれていった。インテリでモダンな演劇など、いろんなものが日本に入ってきた時代。その象徴のひとつが『乱歩だ』と思った」と語っています。演じられる「人間豹」は、34?35年に「講談倶楽部」に連載された長編ミステリーで、猛獣をかたどった影が女性の命を脅かすというストーリーで、言わずと知れた明智小五郎とのバトルを軸に展開するそうです。乱歩の作品の舞台化は「黒蜥蜴」や「陰獣」などが有名ですが、この作品は初めてのようです。
 江戸川乱歩というと、怪人二十面相とか少年探偵団などが活躍する少年文学を思い出しますが、私も小学生の頃学校の図書室からの借り出しがクラスのトップでしたが、この江戸川乱歩物とシャーロック・ホームズシリーズとアルセーヌ・ルパンシリーズが大半を占めていました。そして、高校時代にまたマイブームが来ます。それは、文庫で出版され、その表紙が切り絵でとても妖艶なシリーズになっていたからです。そのときに、江戸川乱歩は、私が知っているような大衆小説を本当は書く気が無く、何度も悩んでいることを知ります。デビューも、大正12年「新青年」に掲載された「二銭銅貨」でした。この小説をはじめとして、初期の頃の作品は、欧米の探偵小説に強い影響を受けた本格探偵小説でした。
 その頃、私は、谷崎潤一郎にも傾倒していきます。全集を買って、片っ端から読みました。谷崎といえば、私の高校の先輩という事もあるのですが、夢中になったきっかけは江戸川乱歩でした。なぜかというと、江戸川乱歩が「探偵小説に一つの時代を画するもの」、「これが日本の探偵小説だといって外国人に誇り得るもの」 (「日本の誇り得る探偵小説」) と絶賛した作品が、谷崎の「途上」だったのです。谷崎の作品といえば、日本的情緒に溢れた純文学的作品を数多く残し、どちらかというと少し異常性愛的なものも含まれているというイメージが強くします。しかし彼は、多くのミステリー物を書いているのです。しかも、それらの作品が、横溝正史など多くの作家に影響を及ぼしているのです。
乱歩と谷崎は、お互いに影響しあっていきます。くだけあって、多くの作品の雰囲気は同じような物があります。また、江戸川乱歩は、「探偵小説四十年」の中で谷崎についても論じており、私はこの著作から知りました。この中で、乱歩と谷崎の出会いがこう書かれています。温泉から温泉への放浪の途中で、乱歩は運命的な、一編の小説に出会います。「伊豆の伊東温泉であったと思うが、宿のつれづれに、ふと手にした小説が谷崎潤一郎の「金色の死」であった。」そのとき、乱歩は、これがエドガー・アラン・ポーの「アルンハイムの地所」「ランドアの屋敷」の着想に酷似していることに気づき、「ああ、日本にもこんな作家がいたのか」 と狂喜した。と語っています。それ以来、乱歩は谷崎文学のとりこになり、谷崎の小説を一つも残さず読むようになったそうです。
私が谷崎を知ったのは、江戸川乱歩からだったのです。何がきっかけになるかわかりませんね。