先月の9月19日に、映画監督の市川準が亡くなられました。出先の食事中だったそうで、59歳でした。当然亡くなられる場合の多くは、タバコが何らかの影響があるといわれていますが、市川さんは、まさか吸っていなかったでしょうね。というのは、市川さんは映画監督になる前の80年代は、CMディレクターとして活躍していました。その有名なCMに、禁煙パイポがあるからです。
このCMは、1984年に作られました。映像は、まず、3人のサラリーマンのおじさんが次々と登場します。一人目はこう言います。「わたしはこの禁煙パイポでタバコをやめました。」そして、二人目はこう言います。「わたしもこのパイポでタバコをやめました。」そして、三人目は、「わたしは、」と言って小指を出して、「これで、会社を辞めました。」というオチで終わるのです。
このCMには、懐かしい思い出があります。何度かブログで紹介しましたが、私が若い頃「八王子保育研究会」という会を立ち上げ、仲間と色々な活動をしていました。その主な活動が、毎年色々なテーマで開催をしていた「乳幼児の世界展」という保育展でした。1987年の保育展は、「くうねるあそぶ」というテーマで、子どもにとって「食べること」「寝ること」「遊ぶこと」の大切さを、井上陽水の出演の車セフィーロのCMをもじっての展示でした。その中で、私がこんなポスターを書きました。
それは、女性が小指を立てている絵で、コメントにこう書きました。「私は、これで会社を辞めました。」そして、その少しあとに続けて、「でも、保育園があったら 辞めなくてすんだのに。」もとのCMでおじさんが立てた小指は「彼女」を表していましたが、私たちの世界では、赤ちゃん指ということで「子ども」を表しています。
そのように、「くうねるあそぶ」ではありませんが、その頃話題になったCM を使って、子どもの世界を表しました。
例えば、「初恋の味 カルピス」というCMをもじって、「初恋の味 離乳食」ということで、子どもにとって始めて味覚を味わう離乳食の大切さや食育の大切さを訴えました。また、「やめられない とまらない かっぱえびせん」というCMをもじって、「やめられない とまらない スナック菓子」ということで、子どもにスナック菓子を与えすぎないようにという警告を発しました。また、「百円でポテトチップスは買えますが、ポテトチップスで百円は買えません」というCMをもじって、「百円でポテトチップスは買えますが、ポテトチップスで健康は買えません」ということで、やはり、スナック菓子の食べすぎを警告しました。
また、「タバコは動くアクセサリー」というCMをもじって、「子どもは動くアクセサリー」ということで、子どもをつれて歩くことのかっこよさを訴えました。
CMは、時代を反映したり、皮肉ったり、印象に残るものが数多くあります。「私はこれで…」を作った市川さんは、他にも「亭主元気で、留守がいい」と教え、それをくりかえすオバタリアンの教室では、主婦パワーを取り入れた金鳥タッチのCMがありますし、「エバラ 焼肉のタレ」「タンスにゴン」「ヤクルトタフマン」「デューダ」等のテレビCMなど400本以上のCMを発表し、85年にはカンヌ国際広告映画祭で金賞を受賞しています。
コマーシャルコピーは、短い言葉の中にどれだけの情報を入れ込むかという面白さがあります。俳句や短歌を詠むように、たまには、コマーシャルコピーを作って楽しむのも頭の体操になるかもしれません。
藤森先生がお作りになったポスター、最高です。コピーも面白いですし、絵もとてもお上手です。特に、「くうねるあそぶ」には思わず笑ってしまいました。どのポスターも時代を先取りしています。あの頃はCMのコピーがいくつも流行語になるような時代でした。最近は、そんなCMがあまり出ないのは、広告の世界がWeb広告の出現で大きく変わり始めているからだと言われています。確かに、「詳しいことはウェブで検索を」というのが増えていますね。「広告批評」の天野氏は『これからのマスメディア広告は、商品そのものの情報よりも、企業の考え方や姿勢を伝えるオピニオン中心になっていくんじゃないですか』と語っています。この「広告批評」も来年30周年を迎えるのを機会に休刊になるそうです。ひとつの時代が終わった感があります。
これらの絵は全部藤森先生が描かれたんでしょうか。何度か見たことのある絵もありますが、全く知りませんでした。ブログの絵のことを知ったときもそうですが、驚きました。それに、時代を反映した短い言葉をうまく保育に結びつけてあります。コマーシャルコピーは当然ですが、何かを訴えるときの言葉の力や重要性を感じます。普段からアンテナの感度を上げておいて時代を読んで言葉を選ぶことは、コピーだけでなく保育にもつながっていくようにも思いました。
先生が考えられたキャッチコピーはどれも面白いですね。また上手く保育に関連させているのが良いですね。さらに真ん中のポスターは思わず笑ってしまいました。その時代のセダンのCMを見てから「くうねるあそび」のポスターを見たら、もっと面白いでしょうね。
本当にキャッチコピーというのは面白いと思いますし、覚えてもらうのには一番有効なものだと思います。ブログに書いてあるフレーズの中で、私が聞いたことがフレーズは「やめられない とまらない かっぱえびせん」です。会話の中で似たような言葉が出たら思わず思い浮かびます。CMのに限らず、キャッチコピーというのは、あの短い文章の中に人に強い印象を与えてしまう位すごい力があるのだなと改めて感じました。
通常、保育関係者は「まじめ」に物事を考えるので、CMのキャッチコピーなど自分たちの仕事にひきつけることはしない、鼻にもひっかけないかと思いますが、今回のブログで紹介されていたCMキャッチコピーのモジリは閉ざされた保育界と世間を結びつける細い糸?の役目を果たしたかもしれません。子育て中の親御さんにも大好評だったに違いありません。あるいはポスターを観て「保育展」を覗き込む一般市民のみなさんも多かったかもしれません。藤森先生たちのこうした発想が「研究会」の活動の幅広さももたらしたのでしょう。何はともあれ、たのしいCMキャッチコピーのバリエーションです。物事には「まじめ」さとちょっとした洒脱さが必要だなと思いました。