富貴

昨日の論語の中で「不義而富且貴」と書かれているように、人は「富貴」を求めようとします。孔子は、そのこと自体が悪いのではなく、それを、不義を働いて得ても意味が無いと言っています。
「子曰 富與貴是人之所欲也 不以其道得之 不處也」
孔子はこう言っています。「富と貴い身分とは人の誰でも手に入れたいと思うものです。しかし、それらを善い事(勤勉や高潔な人格)によって得たのでなければ、その富を享受することも、その地位についていることも、心から満足できないものです。
 「貧與賤是人之所惡也 不以其道得之 不去也」
 反対に、貧しかったり、賤しい身分でいることを人は嫌うものです。しかし、もし道を間違っているならば、そこから逃れることはできないのです。
 これを読んでも、孔子は決して富貴を否定しているわけではありません。ですから、渋沢栄一が「論語と算盤」を著し、「道徳経済合一説」という理念を打ち出したのには、この考え方を孔子から学んだからでしょう。渋沢はこう言っています。「算盤をとって富を図るのはけっして悪いことではないが、算盤の基礎を仁義の上においていなければいけない。私は明治六年に役人をやめて、民間で実業に従事してから五十年、この信念はいささかも変わらない。」実際に、渋沢は、経済を発展させ、利益を独占するのではなく、国全体を豊かにする為に、富は全体で共有するものとして社会に還元することを説き、自らも心がけました。
 「司馬牛憂曰 人皆有兄弟 我独亡 子夏曰 商聞之矣 死生有命 富貴在天 君子敬而無失 与人恭而有礼 四海之内 皆為兄弟也 君子何患乎無兄弟也」
司馬牛は憂いをもってこう言いました。「人間にはみんな兄弟がいるというのに、私だけはただ一人だ」それに答えて子夏が言います。「私は死生の別も運命であり、富み栄えるのも天命であるという言い伝えを聞いています。君子が慎み深い態度をとって間違いを行わず、人と親切に交流して礼を失わなければ、世界のすべての人々がみな兄弟になるだろう。君子であれば、兄弟がないというようなことを嘆くことはないだろうか。」
この中の「死生有命 富貴在天」とは、孔子が常に説く教訓です。しかし、この言葉からは、なんだかあきらめとか慰めのように聞こえます。はじめから、いつ死ぬか決められていたり、貧しくなるか金持ちになるかは天命によって決まっている、自分ではどうにもならないとなると、色々やったりするのは無駄のような気がします。しかし、その前後の文を読むとそうではない気がします。
自己がやるべきこと、できることをきちんとやったからこそ、天命に任せることができるのです。すなわち世のために生きようとしなければ、世の人から尊敬を得ることはできないのです。何もせず、奢り、贅沢に過ごしていては世の中の信用を失ってしまうものです。慎み深く、仁の心を忘れず、他人には礼の心をもって接する必要があるのです。
 偉大な人が残した言葉は、その表面だけを読みとるのでなく、その奥にある言いたいことを感じる必要があるようですね。

富貴” への4件のコメント

  1. 論語は勉強不足ですので、今日のブログの孔子の教訓についてはうまくコメントできません。ただ、富貴、つまり地位とか財産というものは、幸福になるための必要不可欠な条件かというと決してそうではない気がしています。地位や財産があるがゆえに苦しんでいる人は五万といます。所詮、夢幻のようなものではないかと思いますね。昨日のブログにあったように、今の日本人は自分が幸せかどうか他人と比べて判断する人が多いそうですが、相対的に自分の幸福度を判断しているうちは、本当の幸福感は味わえないでしょうね。幸福かどうかは、自分の心が決めるものだと思います。

  2. 孔子の言葉「子曰、吾十有五而志于学、三十而立、四十而不惑、五十而知天命、六十而耳順、七十而従心所欲、不踰矩。」がブログで紹介されてから頭にずっと残っています。七十歳になれば誰でも心の欲するままに任せても限度を超えなくなるわけではないし、自分の欲望を抑えることだけでもその境地には到達しないように思います。欲望を抑えながら進んでいくのか、それとも「慎み深く、仁の心を忘れず、他人には礼の心をもって接する」ことを忘れずに欲望を発揮していけばいいのか。考えているうちにわけがわからなくなります。孔子はどんな思いで多くの言葉を残したんでしょうか。とても気になります。

  3.  以前から先生のブログで孔子の論語がよく登場しますが、どの言葉も始めて聞く言葉です。なので先生の解説がないと理解することが出来ませんが、これからの人生を生きていくうえで、とても重要なことを助言してくれいると思います。
     最近になって自分の人生は生まれたときから運命が決まっているように感じます。だからと言って何もしないわけでなく、今自分ができる最大限のことをやるべきだと思いました。

  4. 渋沢栄一の「道徳経済合一説」は「不正」を働いても金を儲けようとする輩の多い昨今にこそ流布喧伝されるべき説でしょう。そして教育の中で「道徳」をことさら強調されたい皆さんも渋沢栄一の格言に心から耳を傾けるべきでしょう。さて「論語」ですが、当ブログのおかげで、「論語」の中身が少しずつ自分の中に染み渡ってきます。「死生有命 富貴在天」は心に響きます。私たちの死も生も運命です。「運命」と言っても私たちの存在を受動的なものとはしません。そして「富貴」は天命。「悪銭は身に」つきませんが、本当に世のため人のために働いてきた人々は天の命によって「富貴」を得るようです。「運命」「天命」を強くするのは「慎み深く、仁の心を忘れず、他人には礼の心をもって接する」こと。自分の本務に必要不可欠な態度だと気づきます。

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