春の味覚

 最近は、それほどうるさくなくなりましたが、給食のときに「好き嫌い」をなくそうと躍起になっていた時代がありました。今になってみると、何でそんなにむきになっていたのかと思うほど、全部食べるまで、教室の後ろでは掃除が始まっている時間になるまで残したり、吐いたものまでもう一度口の中に押し込んだり、随分とひどいことをしていた教師がいました。
 栄養補給だけのためであれば、錠剤でも飲めばいいことで、その食材の季節感を感じながら、そのものをおいしく食べることが意味あることです。そのおいしく感じる味覚は、年齢によっても変わってくるようです。私は、もともと好き嫌いがないのですが、最近特においしく感じるものに「にがい」「くさい」「くせがある」という食べ物があります。また、肉よりも野菜がおいしく感じるようになりました。たぶん、子どものころは余り好きではなかったものが、いつの間にか好きなものになっている気がします。
 その中で、春は、おいしく感じる物が多く出回ります。
「君がため春の野に出て若菜摘む わが衣手にゆきはふりつつ」(光孝天皇)
 この百人一首でなじみ深いこの歌に出てくる若菜とは春の七草のことです。眺める「秋の七草」に対して、食べておいしく、体に良い「春の七草」と言われる野草が並びます。この七草を入れたかゆが「七草粥」で、旧暦の一月七日に食べると邪気が払われ、無病息災でいられるという慣習があります。そういった慣習には関係なく、この七草は年をとってくると、おいしく感じられるようになります。
「せり」は、セリ科の多年草で、田の畦など湿地に自生します。効能としては、消化を助け黄疸をなくすと言われています。「なずな」は、別名「ぺんぺんぐさ」と呼ばれ、 アブラナ科の越年草で、視力、五臓に効果があったようです。「ごぎょう」(おぎょう)は、ハハコグサの異名です。この効能は、吐き気、痰、解熱に効果があると言われます。「はこべら」は、別名を「はこべ」といい、効能は、歯ぐき、排尿に良いとされています。「ほとけのざ」は、別名「タビラコ」と言います。この効能は、歯痛に効くといわれています。「すずな」とは、蕪と書き、カブラの異名です。消化促進、しもやけ、そばかすにいいと言われています。「すずしろ」は、大根の異名で、胃健、咳き止め、神経痛によいと言われています。まあ、この効用は、地域でも異なる伝承があり、必ずしも科学的に定かではありませんが、確かに、春の七草はおいしいですね。
 そのほかに、春の味と言ったら「ふきのとう(蕗の薹)」があります。雪どけと一緒に春一番に顔を出す山菜ですが、とくに蕾が開いたものは苦く、蕾の開いていないふっくらとしているものが食べごろです。天然のものは独特な苦味が特徴です。これは、子どものころは好きでなかったような気がしますが、今は、大好きです。もう少し時期的にはあとかもしれませんが、「たけのこ(筍)」があります。昨年たけのこ掘り体験をさせてもらいましたが、おいしいものは、全体の形がズングリして太く、短いもの、うぶ毛のそろったものは、なかなか掘るのが大変でした。「わらび(蕨)」は、日本各地の日当たりのよい草原、林、土手などに見られますが、茎、葉、根全体を食べることができ、野草の代表の気がします。ただ、アクが強く、歯ごたえやぬめりが特徴です。他にも、おいしいものに「菜の花」「よもぎ」「たらのめ」「うど」「うこぎ」「ニラ」「ノカンゾウ」などがあります。
 感動する景色の好みが変わると同じように、味覚の好みも変わってくるものですね。