出る杭

 よく「出るくいは打たれる」という言葉があります。これは、頭角をあらわす者はとかく人から憎まれるということです。もうひとつの意味として、差し出がましいことをすれば制裁を受けるということがあります。その二つの意味のうち、差し出がましいことはしないほうがいいのですが、頭角をあらわすものが憎まれるのはおかしいですね。同じような意味で、「喬木は風に折らる」という言葉がありますが、これも、高く伸びた木は、風当たりが強いので風害に遭って折れやすいということで、人も地位が高くなると他人から批判や攻撃されることが多く、災厄を受けやすいというたとえです。他にも、同じような意味で言われることわざに「高木は風に折らる」「大木は風に折らる」「誉れは毀りの基」「褒むるはそしるの基」など、随分ありますね。これらは、基本的に嫉妬心から出るものが多いのですが、赤ちゃんの情緒の分化では、「快」「不快」と分かれる次に現れるのは、「嫉妬心」ですから、人間というものは、嫉妬する心は、早いうちから芽生える情緒のようです。また、嫉妬心からではなく、みんな同じとか、みんな公平にというように、特別を嫌がり傾向にあります。また、波風を立てないというか、今までのままを好みます。しかし、物事は、様々な改革の中から新しいものを生み出していきますし、その時代を作っていきます。また、時代の変化に応じた変化が求められることが多いのですが、人はなぜか改革、変化を嫌い、警戒します。京都大学の山中教授が、じぶんの皮膚の細胞から、痛んだ臓器を直す細胞をつくる発明をしたことで、世界的に注目を浴びています。心筋や神経、肝臓、骨などの細胞など、あらゆる細胞に分化する可能性を持った細胞である「万能細胞」の作製に、山中さんは昨年8月に世界で初めて、マウスで成功し、今年、人でも成功しています。しかし、この万能細胞は、今までは、受精卵を壊して作るしかありませんでした。それを、受精卵を使わず、しかも学生にもできる簡単な方法である「皮膚など体の細胞に、4種類の遺伝子を入れるだけ」でできる方法を生み出したのです。この山中さんの発明に対して、生命の萌芽を壊すことに対し、ブッシュ米大統領やローマ法王庁などは、強く反対していました。また、昨年、マウスで作製に成功したときには、しばらくの間、海外の研究者の一部から、陰で嘘つきよばわりされていた時期もあったそうです。しかし、山中さんの方法を試みた海外の研究室でこのiPS細胞(人口多能性幹細胞)が次々に作製され、再現性が証明された後は、この細胞の研究に火がつき、競争が激化しています。それどころか、米国の研究者が追い越そうとしています。それは、この研究が、今まで、病気や怪我で傷つき、修復不可能になってしまった臓器の細胞は、移植するしか健康な状態に回復させることはできなかったのを、この細胞を使って修復しようという「再生治療」を可能にしたからです。ですから、受精卵を壊して作るES細胞に反対していた、米ホワイトハウスやバチカンのローマ法王庁の注目しており、山中さんたちの論文が発表されるや、即日、「iPS細胞の研究を歓迎する」というコメントを発表しています。そんな海外からの反応に刺激され、1週間後に開催された会議で福田首相が、「再生医療に向け、臨床研究の進め方などこの研究を円滑に進めるための環境作りを早急に進めて頂きたい。」と述べています。出る杭は打たれますが、一度その杭が認められると、今度は打って変わってみんながその手柄を自分のものかのように守り始めるのです。なんとも、みっともない話しですね。