きつねとたぬき

 先日、山口県でソバ屋に入りました。そして、注文するときに面白いことを聞きました。連れの人が「たぬき」を頼んだのですが、出てきたのは、そばの上に油揚げが乗っています。私は、「あれっ?たぬきを頼んだんじゃなかったっけ?」とその人に聞いてみたのです。私は、油揚げが乗っているのは「きつね」で、「たぬき」は天かすが乗っていると思ったからです。じつは、大阪では油揚げを乗せたうどんを「きつね」と言い、「たぬき」とは、油揚げを乗せたそばのことを言うのだそうです。皆さんは、どうでしょうか。大阪では、いわゆる油揚げ=「きつね」ではないため、「きつねうどん」「きつねそば」という表現はもともと無いようです。「きつね」と「たぬき」と呼ぶのは、この二つを対として考える発想と、「きつね」のうどんがそばに化けたのが「たぬき」だという説が有力です。京都ではきざんだ油揚げの上から葛あんをかけたものを「たぬきうどん」「たぬきそば」と呼ぶのだそうです。関東では天かす(天ぷらのかす、「揚げ玉」ともいう)のみを乗せたものを「たぬきうどん」「たぬきそば」と呼びますが、それは、天かすには「タネ」が無い、つまり「タネ抜き」が訛って「たぬき」となったとされています。揚げ玉と油揚げの両方を入れたものを「むじなうどん」「むじなそば」と呼びます。名前の由来は「たぬき」でも「きつね」でもない「おばけ」ということ、そして小泉八雲の『怪談』に登場する「ムジナ」(のっぺらぼうの妖怪が営む蕎麦屋の屋台が登場する)から来ていると考えられます。では、なぜ油揚げが乗っているのがきつねかというと、いなり寿司と同様、もちろん、きつねの好物が油揚げだとされていることに由来しますが、油揚げの色・形が、きつねがうずくまる姿に似ているからだともいう説もあります。1893年創業の大阪・船場のうどん屋、松葉家がいなり寿司から着想を得て考案したと伝えられています。また、名古屋などでは、油揚げの乗っているそば、うどんを、信太の葛の葉狐にちなんでしのだうどん、しのだそばとも呼びます。カップ麺のマルちゃん「緑のたぬき」は、小エビの入ったかき揚げのような天ぷらが入っています。こんなきつねとたぬきですが、やはり山口県に「湯田温泉」があります。この温泉に泊まってみました。その町を歩くと、いたるところに狐の石造があります。湯田温泉駅には大きなきつねの像が置いてあります。それは、こんな逸話があります。
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「1504年?1521年のころ、湯田には、唯一「温泉山、竜泉寺」という真言宗の寺がありました。ある日、住職が、月明かりに照らし出された池の畔に目をこらすと、一匹の年老いた狐が片方の足を痛めていて、痛めた足を池の中に浸けてじっとしていました。その狐は、七日間現れ、その後は来なくなりましたが、住職は、老狐が痛めた足を浸けていた池に手を入れてみると、池の水は暖かく、深く掘り進むと、さらに豊かな温水が湧き出てきました。」それが湯田温泉です。そんな伝説があるからか、いたるところに足湯があり、どこででも、たぶん観光客ではない地域の人とか、学生たちが足を浸けていました。
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 温泉には、様々な動物が見つけたものが多くあります。きつねがあるので、たぬきもあります。たとえば、同じ島根県の温泉津温泉(1月に行く予定です)は、傷ついた狸が暖かい湯に浸かって療養している所を人が見つけたと伝えられていますし、神奈川県の湯河原温泉は、ケガをした狸がこの温泉を発見して傷を治し、その後、人に化けて旅人を温泉に導いたと伝えられています。各地には、同じものでも、その名前や言い伝えや習慣が違いますが、伝言ゲームのように伝わる途中で変わってきたものもあるでしょうね。