猿と幼児

 今日の朝日新聞に、とても興味深い記事が掲載されていました。そのタイトルは、「問題解決法のまね、2歳児が猿に圧勝 独・研究所が調査」というものです。この調査を行ったのは、独マックス・プランク研究所というところです。マックス・プランク研究所とはマックス・プランク協会が維持・運営するドイツを代表する学術研究機関の冠名称です。戦前のカイザー・ヴィルヘルム協会の後継機関ですが、このころは、米国亡命する前のアインシュタインがベルリン・カイザー・ヴィルヘルム化学・物理学研究所の所長を務めていたことでも有名です。最近、ドイツの幼児教育者がよく子どもの発達を言うときに脳にとってどうなのかをいうことがありますが、どうも、この研究所の研究からの報告のようです。今回の調査も、「人と類人猿の知能の差はどこにあるのか――。」ということで、これまでになく大規模で多様な知能テストを実施して、幼児と類人猿を比べたようです。その結果、ほとんど差がない分野も多かったのですが、人のまねをして問題を解決するといった社会的な学習能力では、幼児が類人猿を圧倒したということです。その調査結果の論文が、米科学誌サイエンスに掲載されました。どんな結果かというと、「2歳半の幼児105人、3~21歳のチンパンジー106頭とオランウータン32頭を対象に、多数の課題で知能テストをしたところ、三つのコップのうち二つに食べ物を入れてコップを選ばせるなどして調べた空間記憶や、数量や因果関係に関する認知能力では、幼児とチンパンジーの成績はほぼ同じでした。また、オランウータンも空間記憶と因果関係の認知能力では劣ったのですが、数量に関する認知能力では幼児と差がありませんでした。ところが、プラスチックチューブの中身を出すところを見せると、幼児は上手にまねするが、類人猿はチューブをかんで壊そうとした。問題解決法のまね、他者の意図の理解など、社会的な学習能力は幼児の方が圧倒的に高かったのです。」今までも、少数を比べて「チンパンジーは幼児並みの知能」などとする研究はこれまでもありましたが、これだけ大規模な比較は初めてだそうです。「人の脳は能力全般が高くなったのではなく、社会的な学習能力が突出して進化し、文化的適応が可能になったとする説を支持する結果だ。」この結果では、私は、記憶や因果関係などの認知的な作用は、脳の後頭葉が主につかさどっており、その後頭葉は、チンパンジーなどの動物でも持っていますが、社会的な学習、他者を理解する力などの人とかかわる力をつかさどっている前頭葉は、人間しか持っていません。ですから、たとえ2歳児であろうが、類人猿とその能力に差が出るのは当然だといえます。この研究所は、2004年にも動物と人間の能力の比較をしています。それは、「犬は基礎的な言語能力を備えている」というものです。犬が「お座り」や「お手」、その他いくつかの言葉を理解することは私たちも経験的に分かります。いったいどれくらいの言語能力を持っているのかをこの研究所で調べた結果、何と、ものにはすべて名前があることを理解したうえで、200種類もの名前を記憶したそうです。3歳の幼児と同じ程度とのこと。そのときに、松井智子・国際基督教大学準教授(言語学)は「幼児の方が語彙が圧倒的に多いなど、人との差は大きいが、犬にも高い言語能力があると示した点で面白い」と話していますが、やはり、物を覚える後頭葉は、犬も持っています。これからは、人間らしさを発揮するためには、物を覚えるというよりも、問題解決、他者の意図の理解など、社会的な学習能力が必要になってきます。

猿と幼児” への3件のコメント

  1. 二歳六ヶ月の幼児と類人猿の比較には興味を惹かれます。そして問題解決方法、他者理解、社会的学習能力、という人間の前頭葉で司っている能力がチンパージーやオランウータンに比較して勝っていた、という科学的データは、これまで言われていた人間という生き物の能力の特異性を客観的に証明したもののとしてとても意義深いと思います。但し、今回のデータ対象の「二歳半の幼児」はおそらくドイツ人でしょう。この対象が日本人でも同じ結果が出るのかどうか、少し疑問を抱きます。乳幼児の頃から家庭でテレビやビデオに保育をさせられている日本の子どもたちは果たして「問題解決方法、他者理解、社会的学習能力」が類人猿に勝っているだろうか?と心配になります。

  2.  今回は人間とチンパンジー、オランウータンで計測しましたが、「最後の類人猿」であるボノボも参加させてみると面白いかな?と思いました。そしたら新たな発見が出来る気がするんですが・・・。
     犬が200種類もの言葉を理解することは驚きでした。確かに「お手」「お座り」などの言葉は理解していると思いましたが、それ以上の言葉を理解いているのは感心しました。問題解決、意図の理解をする前頭葉が発達しているのは人間の特許なので、その能力を十分に発揮しなければもったいない気がします。しかし、その能力を使うことが出来る力を持っていないと意味がないと思います。なので、その素晴らしい能力を引き出させる教育というのが必要不可欠だと思いました。

  3. こういった研究結果は参考にしなければいけないですね。人間として何の力を発揮できるようにならなければいけないかを研究結果や藤森先生の解説が教えてくれています。こうした結果をドイツでは幼児教育者が関心をもつようですが、日本では企業の方がより強く関心をもつ傾向があるんでしょうか。子どもたちのことを考えると、ゲームよりも教育に生かすべきなんでしょうね。

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