草枕

 先週の土、日曜日に講演で熊本に行きました。熊本は何度か行ったことがあるのですが、少しの合間を見つけて、少なくともどこかを見て帰ろうと思っています。そんなことを訪れる先の人たちも気を使ってくれます。今回、宿泊先が玉名でしたので、市内に戻る途中に天水町を訪れました。
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 ここには、草枕温泉「てんすい」とか交流館があって、夏目漱石の資料が展示されていました。夏目漱石というと、よく訪れる松山のイメージが強いのですが、交流館の館主の方の説明によると、それは宣伝が上手なだけであって、熊本のほうがよほど漱石に関係するのだと言います。それは、ここに滞在している期間の長さとか、滞在中の出来事、例えば結婚、出産など人生の重要な節目をここで過ごしていることなどを考えると、熊本のほうが、縁があるといっても当然かもしれません。また、漱石の名作「坊ちゃん」が松山を舞台にしているからと取り上げられることが多いのですが、他の名作の「草枕」は、ここ熊本が舞台です。漱石が熊本へ赴任して来た明治29年の暮れ、初めての新年を迎えるために妻「鏡子」が作ったおせち料理を、当時下宿していた書生達に年始客が来る前に食べられてしまい、喧嘩になってしまいます。これに懲りた漱石は、翌年の明治30年の暮れから天水町小天温泉への旅へ出かけます。これを題材にして書かれたのが「草枕」なのです。漱石は年の暮れから、天水町の小天温泉への旅に出ますが、草枕の中で季節は春で、主人公も小説家や俳人ではなく、画家になっています。
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 その画家が人生について切々と考えながら、坂道を登って行くところから始まります。そして、那古井の里に着いた画家はそこでちょっと変わった女性、那美さんや志保田の髭のご隠居に出会うというのが「草枕」のあらすじです。作中、この「那古井の宿」がこの地にある前田家別邸、「志保田家」は前田家、「老隠居」は案山子、「那美さん」は、前田家の次女卓(つな)をモデルにしています。この小説はよく主人公「余」が世俗を厭い非人情を生きる旅をする絵描きとして描かれているといわれています。この小説の書き出しは、「智に働けば角が立つ。情に棹させば…」と有名です。この内容についてはまた論じる機会があればと思いますが、私は、この書き出しが、なんとなく最近感じていることを言い当てている気がしました。ですから、この資料館を訪れたことは、偶然というより、悩みについての考え方を示しているような気がしました。「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。」生きている中で、いろいろな人と出会います。最近、様々な職種でもいろいろな苦情を言ってくる人が増えてきました。また、なかなか改革が進まないことも多いことにあせることもあります。今の日本のあり方にあきれてしまい、これからの時代が不安になることもあります。しかし、嘆くことをしても、逃れようとしても、結局ここに住んで、ここで生活している人と暮らしていかなければならないのです。ですから、少しでも住みよい世にしていかなければならないのです。

草枕” への5件のコメント

  1. 『草枕』の冒頭部分はよく口ずさみます。そして漱石然として「とかくに人の世は住みにくい。」と共に溜息を大きく一つ。そして「住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。」などは、本当にその通りで、意志薄弱なわが身に照らして即座に首肯できる一節です。さらに「どこへ越しても住みにくいと悟った時」その時は情緒が安定して何だか前向き、プラス志向で生きたくなります。そしてさらに「束の間でも住みよくせねばならぬ。」との思いがアタマをもたげます。すると「角が立つ」も「流される」も「窮屈だ」も別の積極的な意味を帯びてくるので不思議です。それでも疲れてくると「安い所へ引き越し」たくなる。こうしたホンネと「少しでも住みよい世にしていかなければならない」というホンネと行ったり来たりしています。ややこしやのわが身を振り返ることができた今日のブログでした。

  2.  初めてコメントします。ある場所で保育士をしている者です。文章を書く勉強の為にこれから少しずつコメントをさせていただきます、小学生みたいな子コメントになってしまいますが・・・。
     夏目漱石といえば「坊ちゃん」を思い出します(少ししか読んでないんですが)。あれは愛媛の温泉ですよね。なので熊本が夏目漱石と関わりがあったなんて思いもよらなかったです。
    ブログの最後の文は納得しました。住み良い暮らしにするには少しでも自分から行動を起こさないといけないと思いました。
     

  3. 夏目漱石の「草枕」は有名ですが、地元にいて温泉には行っても漱石について資料を詳しく見るという機会も持たず過ごしてきました。が改めて見る機会を持ち熊本とのゆかりの大きさもわかりました。藤森先生のブログを見ていていつも感じることは私は有名なところを見てもすばらしいなというだけで終わるのが保育に下ろして考えを結び付けていかれるところがすばらしいと思っています。私はプレゼン能力が苦手ですので投稿をすることによって克服していきたいなと思って初めて投稿ました。

  4. 『心が変われば、態度が変わる。態度が変われば、行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。
    習慣が変われば、人格が変わる。人格が変われば、運命が変わる。運命が変われば、人生が変わる』
    今日のブログを読んでいて、なぜかこの格言が思い浮かびました。確かに様々な人間とかかわりを
    持ちながら、生きていくことは煩わしいですが、結局のところ、環境を嘆いてもなんら変わりはないわけで、「自分自身の変革」こそが環境を変え、人生を変えていく原動力であると信じています。
    諦めは人生の敗北につながるのかもしれません。

  5. どんなことがあっても、結局は自分の責任で前に進んでいくしかありません。他人のせいや他のもののせいにすることはできるけど、そう思ったときには前に進めなくなります。自己責任、自分次第。やるしかありません。自分に言い聞かせながら読ませてもらいました。何事も自分次第、自分の思い方次第。そんな生き方を目指します。

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