抱月

 週末訪れていた島根県金城町で、突然流れてきた曲がありました。それは、「カチューシャの唄」です。以前のブログで、都内JRの駅ごとにちなんだ曲が流れることを書きました。高田馬場駅では、「鉄腕アトム」でしたね。それと同様に、様々な町で、ある時刻になると流れる曲があります。主に、朝とか、夕方に流れます。特に夕方流れる曲は、子どもたちに家に帰る時刻を知らせる役目を持ったりしています。八王子市では、夕方になると、「夕焼け小焼けで 日が暮れて?」という曲が市内全域に流れます。これは、この歌の作詞で有名な、「中村雨紅」は、八王子市上恩方町に生まれたからです。町に流れる曲は、その曲の作詞家か作曲家の生まれ故郷の場合が多いようです。金城町で聞いた「カチューシャの唄」は、島村抱月が1番の歌詞を作詞し、2番以降を早大時代の教え子で詩人の相馬御風(早大校歌『都の西北』の作詞者)に託しました。作曲は御風の進言により、抱月のもとで書生をしていた中山晋平に依頼したものです。中山晋平にとっては、これが作曲家としてのデビュー曲となりました。その「島村 抱月」は、ここ島根県浜田市金城町に生まれています。東京専門学校(現在の早稲田大学)で文学を坪内逍遙に、哲学を大西祝に学びます。卒業後は、イギリス、ドイツに留学、帰国して早稲田大学の講師となり、美学、文芸史の講義を担当します。その後、逍遥との関係から、新劇運動にかかわるようになり、日本でのヨーロッパ近代劇の普及に努めるため、女優、松井須磨子との不倫の恋が原因で早大教授の座から追われた島村抱月は、松井須磨子と共に劇団「芸術座」を立ち上げました。「カチューシャの唄」は、松井須磨子が、トルストイ原作の「復活」(芸術座)の劇中歌として歌い、劇そのものの評判と共に大変な話題を呼んだ歌です。日本の歌謡曲第1号とも言われるほど大ヒットしました。なお、トルストイの「復活」は、友人から聞いた実話が元になっているといわれています。内容は、「貴族ネフリュードフは青年時代、伯母の小間使カチューシャ・マースロワを誘惑して捨てます。そのため、彼女は娼婦にまで身を落とし、やがて法廷の手続ミスのためにシベリアへ流刑となります。皮肉にも、彼女の裁判に陪審員として立ち会うことになったネフリュードフは、深い罪の意識から彼女を救うために努力し、自らもシベリアに赴きます。」しかし、実話では、カチューシャは流刑地で病死してしまいますが、トルストイはそれをネフリュードフと結婚するというハッピーエンディングに変えました。ところが、貴族が娼婦と結婚するという結末は、政府から危険思想とにらまれたため、やむをえず、カチューシャは他の流刑者と結婚するという筋書きに変えました。これが、今も読まれている「復活」の結末です。ずいぶんと激しい恋ですが、カチューシャ役を演じた須磨子も、抱月がスペイン風邪で島村が病死すると、世を悲観して2ヶ月後に、芸術座の道具部屋において自殺(縊死)しています。そういえば、作曲した「中山晋平」は長野県中野市の出身、歌った「松井須磨子」は長野県長野市(松代)の出身で、共に長野県出身です。カチューシャの唄の歌詞を口ずさみながら、長野で入ったりんごを浮かべた温泉を思い出していました。
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「1.カチューシャかわいや わかれのつらさ せめて淡雪 とけぬ間と 神に願いを(ララ)かけましょか 2.カチューシャかわいや わかれのつらさ 今宵一夜に 降る雪の 明日は野山の(ララ)路かくせ 3.カチューシャかわいや わかれのつらさ せめて又逢う それまでは おなじ姿で(ララ)いてたもれ」

抱月” への5件のコメント

  1. 普段あまりテレビは観ないのですが、日曜日夜のNHK大河ドラマはよく観ていました。川上貞奴の生涯を描いたNHK大河ドラマ「春の波濤」に山本学演じる島村抱月や名取裕子演じる松井須磨子が登場していたのを思い出しました。大正ロマンを感じますね。トルストイの「復活」、私も読みました。中学の頃でストーリーをすっかり忘れていたのですが、今日のブログのおかげで思い出すことができました。トルストイといえば、中学2年生の頃熱に浮かされながらも「光あるうち光の中を歩め」や「人はなんで生きるか」という作品を読んでいました。キリスト教という宗教を知らないとわかりようがないことを後年しりました。「カチューシャの唄」はいいですね。名曲は何十年たっても色あせない。クラッシックスとは時間を超越した作品のことなのでしょう。そうそう島村抱月はイプセンの「人形の家」の翻訳家でもありましたね。昨年2006年イプセン没後100年でした。そして今年2007年はイプセンと親交が深かったグリーグ没後100年です。画家ムンクも同じノルウェーの出身です。いろいろなつながりを感じます。

  2. 土曜日はお疲れ様でした。ご無事に飛行機に乗られましたか?
    今回のテーマは基調講座だったのですが、藤森先生のお話は、いつ聴いても、新鮮です。内容は同じことなのですが、その時々によって話し方が違ったり、ちょっとしたエピソードなどが入ったりと、いつも楽しんで聴いています。藤森先生のソフトなお話の仕方は、相変わらず私に安心感を与えて下さり、眠気を催してしまうのですが・・・(笑)。
    バタバタとした時間の中、ロフト計画の相談にものって頂き、ありがとうございました。
    今回も、とても楽しく気づきがたくさんのお話をありがとうございました!

  3. 同じ場所で同じ音楽を耳にしたとしても、こんな風にはつながってはいきません。こうして自分が普段考えないことに触れてもらえることで、いつもまとめて教えてもらえることで、いろんな刺激をもらっています。貴重な場を与えてもらっていることをあらためて感じ、感謝しています。

  4. 島村抱月さん、検索してみると「あ、教科書で見たことのある顔だ」と思いました。どんなことをされた人か知りませんでしたが、とても身近な人だったのですね。カチューシャの歌も聞いてみました。聞いたことのない歌でしたが、物語を知って聞くといろいろと想像しますね。金城町といえば、私にも思い入れが少しある町です。私の中では金城町は淡い恋の思い出の場所のような所です。当時、金城町に住んでいた同級生と短い恋を経験いたしました。二人でゆっくり金城の町を歩いたことを思い出しました。いい思い出です。

  5. 「中村雨紅」の夕焼小焼は、懐かしいですね。子どもの頃、その音を目安に自宅に帰っていったものです。その音は、様々な土地で流れているようですね。また、電車の発車ベルも、その地域出身の作曲者の曲が流れるのはいいですね。地域を知ることにもつながりますし、地元の懐かしい思い出にもなると思います。そして、長野のりんご風呂。気持ち良さそうです。この匂いを嗅いで、その土地出身の作曲者や曲を思い出すというのもあるのですね。嗅覚というのは、記憶の中によく残っている印象があります。子どもの頃に嗅いだ芝生や茂みの匂い、夏の夕焼けの匂いなど、独特の匂いがよい思い出を蘇らせてくれます。

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