園のビジョン

 建物を新築するときに、何を設計者の方に伝えようとするでしょうか。よく、保育園、幼稚園を新築するときに、きちんと使う人、現場も設計者と話をして、考えを伝えるべきだということで、現場の職員と何度も話し合いを重ねているということを聞いたことがありますし、参考にしようと私の園に見学に来る方がいます。そんなときに、「いったい、この人はどんな園を作りたいと思っているのだろうか?」と不思議に思ってしまうことがあります。というのは、私の園に着くなり、メジャーを取り出して、机の高さ、椅子の高さ、窓枠の高さなどを測り始めます。確かに、建物にはあるスケールが必要です。机や椅子の高さも必要かもしれません。しかし、スケールを考える前に、その机や椅子をどのような場面で、誰が使い、それを使うことによって何をしようとするのかを考える必要があるのです。たとえば、私の園でこんなことがありました。3歳児から6歳児がいっしょに活動をするときに、3歳児と6歳児では体がずいぶんと違うので、同じ大きさの家具を使うのは無理ではないかと考えました。座る椅子にしても、子どもの体の大きさで変えたほうがいいのではと思いました。そこで、小さい椅子から大きい椅子まで何種類かそろえ、大きい子には大きい椅子を、体が小さい子は小さい椅子を使うようにしたのです。すると、そのことに間違いがあることに気がつきました。確かに、その椅子に座って、人の話を聞く場合はそれでいいのですが、その椅子に座って机で食事をするとき、机の高さは変わりませんので、体の小さい子には大きい椅子、逆に体の大きい子には小さい椅子に座ったほうが食べやすいのです。このように、同じ椅子でも用途によって、何を優先するかということで違ってきます。ですから、椅子の高さをただ片っ端から測っても意味がないのです。また、どのような建物を作るかといって要望を出させると、「なるべく収納を多くしてほしい」とか、「木をふんだんに使ってほしい」とかという要望が出ますが、それよりもまずは、そこでどんな保育を展開しようとするのかということをきちんと伝えないといけないのです。後で、その建物を見ただけでも、ここでどんな保育が展開されるのかがわかるような空間作り、部屋の配置、家具の配置でなければならないのです。
2003年にNHKの「トップランナー」という番組にデザイナーの佐藤可士和氏が出ました。彼は、現在日本を代表するアートディレクターの一人で、SMAPのアートワークやキリンビールの「極生」などの商品開発・広告キャンペーンなどを手がけたことで知られています。そんなデザイナーのトップランナーである彼が番組の中で、「たとえば幼稚園とかをやってみたい。教育とか医療とか、アートディレクションの力が、ほとんど利用されていないところでなにかをやってみたい。ぼくはデザインの力をとても信じているから」というような話をしました。また、「教育のカリキュラムをいじるより、アートディレクションのアプローチで解決できることだってたくさんあるかもしれないですから。」と言っています。その佐藤氏が、あるきっかけで幼稚園建築のディレクションをすることになったのです。その舞台となったのは、東京都立川市にある「ふじようちえん」(定員:保育児含め600人)です。
ensya.JPG
「具体的な園舎のデザインではなく、新しい幼稚園の在り方やその状況をデザインし、園のビジョンを提示する」その園の落成披露式に今日行ってきました。