火の用心

 年末が近づいて思い出すものに「火の用心」の夜回りがあります。寒々とした冴えた冬の夜に、鋭く響く拍子木の音とともに思い出します。私の子どものころは、下町ではこの音を聞きながら寝入ったものでした。そのころは、誰が回っているのかなどは気にしていませんでした。今住んでいる地域では、地元の消防団の若者が、地域で持っている消防自動車に乗って、鐘を打ち鳴らしながら回ります。年末年始は、寒さが本格化し空気が乾燥するのに加え、火気を使用する機会が多くなり火災発生の危険性が高くなる時季のために夜回りをするので、年末というイメージなのでしょう。火事の四分の一が、この時季に発生している地域もあるそうです。この夜回りをしながら、注意を促す呼びかけを行います。私の覚えているのは、「火の用心。マッチ1本、火事のもと」というものです。最近でも年末に回っている自治体があるようですが、どんな呼びかけを行っているのでしょうね。今度開園する新宿の園では、オール電化なので、マッチはもちろん、火はまったく使いません。そんなときの呼びかけはどうなるのでしょうか。戦前から戦中にかけては、「米英撃滅火の用心 撃ちてし止まん火の用心 マッチ1 本火事の元 戸締まり用心火の用心 タバコの吸い殻火事の元 泥棒の用心願います カマドの不始末火事の元 ついでに戸締まり気をつけて」と言っていたように 火事のもとは爆撃されたときの火の手であり、かまどの火だったようです。そして、火事場の泥棒と言われたように、火事のときは、火だけでなく、泥棒にも気をつけなければならなかったようです。それが、昭和20年代になると、「火の用心 タバコの吸い殻火事の元 火事や盗難ないように 火の用心 カマドの不始末火事の元」とか、「火の用心 マッチ1本火事の元 おイモ焼いても家焼くな」のように、タバコの火が火事の原因に躍り出て、家庭では冬に焼き芋をして食べていたことがわかります。昭和50年代になると、「火の用心 マッチ1本火事の元 火事は国家の大損害」とか、「火の用心 マッチ1本火事の元 サンマ焼いても家焼くな」となると、聞いてもらうために語呂あわせを楽しんでいる様子が伺えます。「マッチ一本 火事のもと」という標語は、昭和28年に東京消防庁によって選ばれたものだそうですが、最近のものは、「あなたです 火のあるくらしの 見はり役」(H.17)「消さないで あなたの心 注意の日」(H.18)だそうです。
また、いっしょに打ち鳴らす拍子木は、「拍子」を取るための木の音具です。手に持って打ち合わせると、「チョーン、チョーン」と高い澄んだ音が出るために、この夜回り、夜警だけでなく、日本では古来様々な用途に用いられてきました。たとえば、相撲では、「呼び出し」が拍子木を打って、力士の名を呼びます。また、子どものころの思い出は、この拍子木が午後に聞こえると急いで跳んで行ったものです。それは、昭和初期から30年代にかけて下町で人気のあった街頭紙芝居屋が、自転車で町々を回って、拍子木を鳴らして子どもを集めて紙芝居を見せ、飴などを売ったのです。あと、人形劇や歌舞伎では、開幕、幕切れ、役者の登場などに拍子木が重要な役割を持っています。お祭りのときにも、みこしや山車の運行に、拍子木の音によって、止まれ、ススメ、回れ、などの合図をしました。
 私が子ども会の顧問をやっていたころ、子どもたちを父親たちが付いて夜に「火の用心」をして歩きました。異年齢の付き合いが大切であるイベントでした。

火の用心” への6件のコメント

  1. 暖かい日が続いたせいもあり、年末ということを忘れかけていましたが、今日のブログでまた年末という意識がもどってきました。私の住んでいる地区ではこの時期に地元の消防団が鐘をならしながら見回りをしてくれます。火に対しての意識も高まりますし、なんとなく地域というものを感じます。
    拍子木の音も最近は聞かなくなりました。確かどこかにしまってあると思うので、探して子どもと一緒に鳴らしてみようと思います。

  2. 歳も押し詰まってきました。
    「火の用心」の夜回りについて子どもの頃からテレビ等から知ってはいましたが、当地では昔から行われていませんでした。地域消防団の広報夜回りだったら現在も行われています。
    子どもたちを父親たちが付いて夜に「火の用心」をする姿は、モーターボート協会(現日本財団)のCMで、高見山親方が大太鼓を抱え、故山本直純氏が先頭で拍子木を叩いていたのを思い出します。

  3. 私の子どもの頃は、子どもも多かったので、子供会の活動も盛んでした。
    火の用心の夜回りも大事な活動で、子どもなりに地域に役立つことをしているという実感が
    味わうことが出来て楽しかったですね。今みたいにテレビゲームもなかったけれど、身近なもので
    工夫してあそびを楽しんでいましたね。藤森先生のお話を聞くたびに自分たちは隣近所の
    異年齢の子ども集団のなかで子ども時代を過ごすことが出来て本当に幸せだったと実感します。

  4. 横浜で学習塾を経営していた頃のことです。この時期は丁度冬期講習の時期で、朝から始めた講習も夜の高校生の部で終了です。そして、高校生たちが受講を終えて家路に着く頃、町内会の人達が拍子木を鳴らし「火のよーじん」チョン、チョン、「マッチ一本火事の元」と言って過ぎ去ります。掛け声の合間にする世間話の声も聞こえてきます。「火の用心」と聞くと、横浜時代を思い出し妙に感傷に浸ってしまいます。

  5. 出火原因の上位にはタバコが上がってきますね。タバコは吸わないのですが、ヒーターであったり、配線のホコリであったりと、気をつけなければいけない部分はありますね。私の住んでいる地域では消防団の方が鐘を鳴らしながら、回ってくださっています。あの「カンカンカン」という音を聞くと夕方だとか、冬を感じます。拍子木は今、園で聞く機会があります。短い音が刻まれ、徐々に音の感覚が短くなっていくあの音を聞くと、何かが始まるようなそんな気分になります。拍子木に自分の気持ちが持ち上げられているような感覚でしょうか。私は大相撲中継が好きなので、たまにあの呼び出しのさんの力士の呼び出し方を真似することがありますが、なかなか本物のようにうまくは言えませんね。

  6. 「火の用心 マッチ一本 火事のもと」のように、相手に伝える時には言葉にリズムをつけてゴロがを良くするのですね。やはり、日本人には五七五の言葉の方がしっくりくるのですね。また、「オール電化」という場合にはどうなのでしょうといった社会の変化のように、最近「マッチ」を見かけなくなりました。子どもの頃は、石油ストーブに着火する時には必ずマッチを使用していました。マッチを着火した時の、あの香ばしさのある焦げた独特の匂いが私は好きでした。そして、この時期というのは空気が「乾燥」し始めるといったことも「火の用心」に関係しているのですね。ふと忘れてしまう火の始末を、地域の方々の拍子木の音で思い出し、助けられた人は多いのではないかなと感じました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です