やる気

 日本の教育界を最近揺るがしているものの一つに、OECDが行った、ピサの学力調査結果があります。特に日本の子どもたちが、読解力が下がったということで、言語の力をつけようとしています。しかし、私がよく言うことですが、この結果で、最優先に取り組まなければならない課題があると思います。それは、この調査の中で、日本の子どもたちの「学ぶ意欲」が、最低であったということです。それが、働く意欲のなさにつながり、生きていく意欲のなさにつながっているのです。しかし今はただ、O157という菌対策に明け暮れ、身の回りから菌を排除だけしようとしています。本当は、排除と同時に、菌に対する抵抗力もあわせてつけていかなければならないのです。そのような抵抗力は、意外にも、意欲が関係していることがあるのです。なんとなく、実感はあると思います。気がめいったり、なんだか気力がないときにからだもだるい気がしますし、病気にもなりやすいような気がします。また、「病は気から」というように、気持ちの持ちようから病気になることもあるような気もします。私も、忙しいときにはあまり風邪を引きませんが、年末になって休みが長く続くときは決まって熱を出していました。少し前に熱を出したときも、連休のときでした。がんばって何かに打ち込んでいるときは、あまり病気をしないようです。気持ちの問題かもしれませんが、東洋医学では、体を巡る目で見ることのできないエネルギーを「気」と呼びます。その「気」が少なくなったり、体のどこかに停滞してしまったときに、「気」が「病む」ということで「病気」になると考えられています。こうした考えは、経験的には認められても科学的な根拠のないものとして片づけられてきました。しかし、最近では疫学的な調査や「やる気」の仕組みが解明され始めたことで、やる気と免疫系に深い関係があることが少しずつわかってきています。やる気は、脳の中の論理的な思考や抽象的なイメージなどの人間らしい高次情報と、食欲や性欲などの動物的な生存本能にかかわる情報が行き交う場所である側坐核に関係があるといわれています。また、脳内物質が、脳の働きを活性化して意欲を高め、体の機能を活発にする働きがあるといいます。この物質は、恐怖や驚きといったストレスを感じたときに分泌されます。ある場面で実力以上の能力を発揮することを「火事場の馬鹿力」といいますが、危機に直面する(ストレスがかかる)と、これらの物質が分泌されてやる気がつくり出され、脳や体が活性化し、何事も今以上にという発展性のある意欲をかきたたせるといわれています。このようにストレスや生存の危機から心と体を守る本能にかかわる情報と、よりよい自分を実現するための人間としての高次の情報が行き交うそばにある側坐核が、それらの情報をもとにやる気を生み出していると考えられています。私たちの体には、病原体に立ち向かう免疫機能が備わっています。うつの人は健康な人に比べて脳内物質の量が少ないことがわかっています。また、うつ状態になると免疫機能が低下するという研究報告も数多く発表されています。つまり、この2つの事実を結びつけると、やる気にかかわる脳内物質の量が減るとうつ状態に陥る可能性があり、免疫力が低下するということになります。ですから、絶望や悲しみなど後ろ向きの心理状態では免疫力は低下し、物事を前向きに捉えて意欲的に生きようとするプラスの心理状態、つまりやる気に満ちているときには免疫力が上昇するのです。自分の人生を積極的に生きていこうとするやる気が免疫力を高め、病気から体を守ることにつながっているのです。