お金

 先日、テレビで坂本九の生涯をやっていました。その坂本九の歌の中で、最近のニュースを見るにつけて思い出す歌があります。覚えている人もいるでしょうが、「悲しき60才~ムスターファ」という歌です。この歌がヒットしたのは1960年のことです。トルコの原曲に元都知事の青島幸男氏が詞をつけたものです。この歌詞は、当時はコミカルに描いているのかと思っていたのですが、あらためてよく読んでみると違うものが見えてきます。歌詞は、こんなです。
「遠い昔のトルコの国の 悲しい恋の物語。純情可憐な優しい男 それは主人公ムスターファ。見初めた彼女は奴隷の身、ところが僕には金がない。どうにもならない、諦めきれない、どうしたらいいんだろう、諦めきれない。未練な男ムスターファ。金さえあればこの世では、思いのかなわぬことはない。そこで僕は考えて、一念発起でマネービル。金の亡者ムスターファ。がっちりかせいだムスターファ。トルコで一の金持ちに、なってしまったムスターファ。急いで彼女を訪ねたら、いまや悲しき60歳。夢の破れたムスターファ。泣くに泣かれぬムスターファ。」
最初は、純情で可憐でやさしいムスターファが、金さえあれば、何でもできると思い始めます。そして、マネービルを始め、そのうちにお金を稼ぐことに面白さを感じ、次第に貪欲になり、金の亡者になり、金持ちになります。そして、やりたいことをしようと本来の目的に立ち戻ってみると、その思いは実現できません。時という、金で買えないものがあることを悟るのです。なんだか最近の「堀江」とか「村上」を思い浮かべます。たぶん、最初のころは純情で、思いがあったでしょう。しかし、お金が手に入るにつれて、次第に最初の志はどこかに消えていき、お金を稼ぐことだけが目的になり、そのうちに稼ぐことのためには手段を選ばなくなり、やがて、多額なお金が手に入りますが、大切なものを失っていることに気がつくと思います。すると、手に入れたかったものはなんだったのか、それは金で手に入るものだったのでしょうか。
 先日、知人から本が送られてきました。司馬遼太郎の「21世紀に生きる君たちへ」という本です。そこには、大阪書籍の教科書に掲載された2編の話が載っています。ひとつは本のタイトルである「21世紀に生きる君たちへ」という6年生の教科書に載っていたものです。もう1編が「洪庵のたいまつ」という、5年生の教科書に掲載されたものです。その書きはじめには、こう書いてあります。「世のために尽くした人の一生ほど、美しいものはない。ここでは、特に美しい生涯を送った人について語りたい。緒方洪庵のことである。このひとは、江戸末期に生まれた。医者であった。彼は、名を求めず、利を求めなかった。あふれるほどの実力がありながら、しかも他人のために生き続けた。そういう生涯は、はるかな山河のように、実に美しく思えるのである。」洪庵は、自分自身と弟子たちへの戒めとして、12か条よりなる訓戒を書いています。その第1条の意味を司馬遼太郎や優しく、しかも厳しく書いています。「医者がこの世で生活しているのは、人のためであって自分のためではない。決して有名になろうと思うな。また利益を追おうとするな。ただただ自分を捨てよ。そして人を救うことだけを考えよ。」こんな生き方の方にあこがれます。

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