野の花

桜が散っている中、足元には,よく見るとひっそりと、しかし、しっかりといつの間にかさまざまな花が咲いています。園の隣の桜の大木の足元で、いろいろな花を見つけました。それらの花には、その姿には似つかわしくない名前がついていたり、もし花が話せたら文句を言いそうな名前がついていたり、いかにも頷けるような、納得のいくような名前がついていたりします。どれにしても、その名前をつけた時代の人の発想に驚かされることがあります。
sumire.jpg「墨入れ」と「スミレ」
その中で、何年か前にその名前の由来を知ったときに、納得した名前があります。それは、「すみれ」です。その花の形は、建物を建てるときに、材木に線を引くときの道具である「すみいれ(墨入れ)」と形がそっくりです。スミレの仲間は非常にたくさんあって、スミレ属は世界の温帯に400種以上あり、日本には約50種あるそうです。園のそばに咲いているスミレは、「タチツボスミレ」のようですが、この種は,スミレの中でも一番よく見られ、低地や山地でみられるもっとも普通なスミレです。スミレの由来は墨入れからですが、タチツボの和名の由来は、「つぼ」とは道端や庭の意味で、そういう身近な所で見られることからツボスミレといいます。「立」は、花の盛りを過ぎると茎がしだいに立ち上がってくるところからきています。「春の野に すみれ摘みにと 来《こ》し我れぞ 野をなつかしみ 一夜寝にける」(山部赤人 万葉集)「春の野に、すみれの花を摘もうとやってきた私は、野辺の美しさに心引かれて、ここでつい一夜を明かしてしまいました」「古今集」や「源氏物語」にも引用された、有名な歌です。万葉の時代には、スミレは食用や染料としても利用されていたようですが、この歌の「すみれ摘み」は、そのために摘みに来たのではなく、「野遊び」だったようです。
karasutoooinu.jpg「カラスノエンドウ」と「ジシバリ」と「オオイヌノフグリ」
 その隣には、「カラスノエンドウ」という花が咲いています。この花は、マメ科の植物ですが、完全に熟すとさやや種が黒いので、カラスノエンドウであると言う説や、似た種類にスズメノエンドウがあり、これに似ており、それより大きいことから名がついたという説もあります。別名「ヤハズノエンドウ」といいますが、葉が、「矢筈」に似ていますね。実ったさやを割って種を除き、さやの片方をちぎって吹いて、鳴らして遊びます。
 この頃咲く花で、私が気に入っている由来を持っている名前は、「じしばり」です。細い茎が地面を這うように四方にのびて、その節々から根を出して生長します。その姿が、地面を縛っているように見えるので、「地縛り」という名前です。また、この花は、石垣の間や岩場のようなところでもよく育ち、茎や葉を切ると出る白い乳液が苦いところから、「イワニガナ」(岩苦菜)とも呼ばれます。
春の野で、なんといっても有名な名前は、「オオイヌノフグリ」でしょう。これは、もちろん「大犬の陰嚢」です。名前の由来の似ている形は、花の形でなく、晩春につける果実の形からです。ですから、一面に咲くこの花からは、この名前を呼ぶのは申し訳ないほど、とても可憐で、美しいと思います。また、大犬とは大きい犬のことではなく、日本産種の「イヌノフグリ」よりも大きいからで、「大イヌノフグリ」なのです。
 名前の由来をちょっと知っているだけで、同じ花を見ていても楽しくなります。子どもにも、そんな楽しさを伝えたいですね。