動線

 「福岡県のある少学校では、給食後の食器の片付けを子どもたちがきちんとしないために、先生方がこれを子どもたちの「心の問題」ととらえ、子どもたちに対して「マナー」とか「食器を洗う人への思いやり」とか、さらには「食器さんがかわいそう」などということを連呼し、子どもたちの心や意識やモラルに働きかけようとしたことがあったそうだ。それでも顕著な改善が見られず、先生方が落胆していたところ、一人の先生が、「これは、食器を片付けるときの動線が悪いのではないか」ということに気づき、子どもたちがスムーズに動けるよう動線を直したところ、たちどころに片付けられるようになったという。」(「日本を滅ぼす教育論議」岡本薫著)
 「ずいぶん前の話になるが、「子どもが落ち着いて一つのことに集中できなくて、いつもザワザワソワソワで、どうにかならないだろうか」と、ある保育園の園長さんから相談を受けた。早速、出かけてしばらく様子を見せてもらった。床の上でお絵かきをしているすぐ横を駈けぬけて行く子や、ままごと遊びのすぐ横でトランポリンで飛び跳ねている子がいる。ルーム形式の保育園で、異なる年齢の子が自由に遊べるようになっていて、それはそれでいいのだが、これでは確かにじっくりと落ち着いた遊びは、やりにくい。そこでぼくは問題点を指摘し、試みにその部屋の家具のレイアウトを変えるよう提案した。園長さんは、半信半疑の様子だったが、ぼくの提案は、お金がかかることでも多大な労力を要する仕事でもなかったので、子どもたちが帰宅しはじめたころから、数人の保母さんに号令をかけて家具の移動をやってみることになった。それまで、ほとんどの家具は四方の壁に背を向けていたのを、中心に引っぱり出して、間仕切りになるようにしたわけである。こうすることで随所にコーナーができ、子どもたちの動線をあらかじめ設定できる。翌日、早速、園長さんから電話がかかってきた。見事にこちらが予想した結果が得られたということだった。そして、それが驚くべき事実だと評価され、ほめられ、感謝されてしまった。しかし、こんなことは、建築デザインの仕事をやっていれば、誰もが知っていることなので、ぼくはただただ恐縮するばかりであった。そしてこういう知識は、保育の現場でも共有できていなければならないなと痛感した。」(「バリアフリーをつくる」光野有次著)
 「動線」というのは、人や乗り物などが動く道筋のことです。建築物や、展示会場などの平面を機能的に計画する手法の一つです。動線と動線が交わらないで、目的地点に短い線で行けるのがよいとされています。建築物というのは、その建物にどのように近づいていくのか、建物のどの場所から入るのか、そして中に入るとどのように動いてどこに行って何をするのか、というように基本的に人が動く場所です。しかもその動くものは、園では、それぞれの年齢の子です。登園から降園まで、どのように子どもが生活をするかに関係します。そして職員がそれに対して、どのように動くか。最近は保護者だけでなく、地域の人も園の中に来ることが多くなるので、そういう人たちの動きも考えなければいけません。子どもが怪我をしたり、騒いだり、落ち着かなかったり、その問題の原因を簡単に「こころ」や「しつけ」の問題にするのではなく、まず、システムやさまざまな手段をを充分に検討しなければいけないのを、どうも手順を間違えてしまうことが、子どもの問題が、なかなか解決しない原因になっているかもしれませんね。

動線” への4件のコメント

  1. 藤森先生の引用の通りですし、藤森先生の仰るとおりのことだと思います。ドイツやオランダの子ども達が「こころ」や「しつけ」などと言われなくてもいいのは、子どもを取り巻く環境や動線の意識化に対する配慮が大人の側にあるからだと思います。本日のブログも園内研修や保育所内回覧にさせていただきます。ありがとうございます。

  2. 動線について教わったとき、そのような見方があるのかと驚いたのを思い出しました。福岡の例にある「食器さんがかわいそう」といった言葉は保育園でもよく使われていました。心の問題と捉えることもできるのかもしれませんが、食器さんと呼ぶことに違和感がありますし、かわいそうと思えない子どもは間違っているという単純な発想のようにも思えて、気持ちのいいものとは思えませんでした。「バリアフリーをつくる」にも書かれているような気づきを得ることは大事なことだと思います。

  3. 子どもの行動に対して「こうしなさい、ああしないさい」としつこく指示して直そうとする前に、どうしてそのような行動をとったのか、どうしてそうなるのか、という原因を考えることの方が大切ですね。そして、考えて、改善することはもっと大切ですね。そういう意識で子どもの姿を見なければと思っています。動線、仕切りといったことはずっと悩んでいますが、なかなかいい解決策にたどり着けません。そんな中でも、あれこれと試している中で、気がつくこともたくさんありました。今ある環境をいかにうまく使うかということはまだまだ考えなければいけません。

  4. 子どもに伝える前に、まずは大人ができることをしなくてはならないのですね。ついついその場で、口で言ってしまっていると思います。単純に、私も子ども理解不足であると反省しました。家具の配置変更によって、子どもの姿も変わったことで「建築デザインの仕事をやっていれば、誰もが知っていることなので、ぼくはただただ恐縮するばかりであった」というように、保育の場だけではないところにも、実はたくさんの保育へのヒントが存在していることを忘れないようにしたいと思いました。

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